愛し方も、きっとお揃い。

とある日曜日。昼下がりに差し掛かる現在の街の賑やか振りと言ったら、それはすごい人だらけ。
一人で過ごす人もいれば、友達と楽しそうに笑っている人もいる。そして、恋人と、幸せそうに手を繋ぐ人たちも大勢。

そんな中僕は、せっかくの日曜日だというのに休まず働き、そんな仕事終わりの彼を待ちがてら、建物の影があたるベンチに腰をおろして、小説を読みふけっていた。
そして、どれほどの時間が経ったのかは分からないけど、待ち合わせ時間をとうに過ぎても声をかけてこないことが不思議でならない僕が、小説を閉じて一息ついた時。



「終わったっスか?」

「…!黄瀬くん、いたんですか。声をかけてくれれば良かったのに。」

「だって、いいところで読むのやめたら続き気になってしょうがないでしょ?…さ、行こう」



どうやら、僕が小説を一通り読み終えるまで、近くで待っていてくれたらしい。

“そういうところ、僕は好きです。”
そんな言葉の意味も込めて、差し出された手に僕の手を重ねる。



「あっ、あの本って、黒子っちが好きって言ってた著者が書いた新作?」

「そうなんです。何だか、今までと何かが違うって話題になってるんですよ」

「読むの楽しみっスね。今度読んだら、話聞かせて欲しいっス」

「いいですよ。」



黄瀬くんは、僕の何気無く言った一言も、聞き逃さない。それに、僕の好きなものも、全部知ってる。

街中にたくさんの広告が溢れかえってる中で、僕の好きな小説家が出した新作を取り上げている通り過ぎた本屋で小さく宣伝されていたポスターを指差して会話を繋いだ。
それに、「また黒子っちと約束が出来た。」って。

ただ、僕が読んだ本を説明すると約束しただけなのに。そんなに小さな約束なのに。
黄瀬くんは、いつも「黒子っちとの約束ができた」って、とても嬉しそうに笑う。




「俺、ちょっと向こう見てるっスね。だから黒子っちも、ゆっくり見てて」

「はい。」



僕も黄瀬くんも気になった雑貨屋に立ち寄った。初めは二人で話しながら見ていたけど、黄瀬くんは一人で見たいと僕から離れて、奥へと消えて行った。

「たとえデートだとしても、大好きな人と一緒にいても、自分が気に入った好きなお店だったら、それを一人でゆっくり見るプライベートな時間も必要だと思うんス。」
前に、黄瀬くんが言っていた。
これは、ただの自己満足な考えなんかじゃなくて。僕も、密かにそんなことを思っていたから。
だから黄瀬くんと僕は、すれ違うこともなく、互いに深入りすることもなく、二人にとって心地よい距離を保ったまま、ずっと一緒にいられるんだろう。



「あ………」



ゆっくり棚に並べられた品物の数々を物色しながら歩く。
そして、食器が並んでいる棚の前で、立ち止まって手にとったのは、赤、紫、青、緑、桃、黄、水色。色とりどりの七色の色があるマグカップ。デザインもシンプルでとても可愛くて、大きさもちょうどいい。

でも、何よりも惹かれたのは。
黄色と水色が、ピッタリくっついて、仲良く隣同士に並んでいること。
何でもないのに、僕は何だか嬉しくて。

これが欲しいと黄瀬くんに相談するため、探しに行こうと店内を見回してみると、いつの間にかここも人が多くなっていて、混雑している。こんな中じゃ、見つけるのは難しそうだ、なんて考えていると



「黒子っち、何かいいもの見つけたっスか?」

「黄瀬くん!」

「ん?どうしたんスか?…あ、可愛いマグカップっスねー」

「あ、あの、これ…黄瀬くんと僕で、お揃いにしませんか?」

「いいっスね!またお揃いが増えたっス!」



また笑う黄瀬くんを見ていると僕も幸せで。大事に両手で持ってお会計に進むと、いつの間にか黄瀬くんも何かお会計を済ませた袋を持っていた。
…何か、買ったのでしょうか?



「家に帰ったら、このコップでコーヒー飲んで、ゆっくりしようね」

「はい。そうしましょう。…それにしても、いつも思いますが、よくあんな人ごみの中で僕を見つけられますね」



黄瀬くんは、本当にいつも、僕が彼のことを思うと、すぐに来てくれる。どんな遠くにいようと、どんなに人が多くとも。
そして、簡単に僕を見つけて抱きしめる。
ただでさえ人より影の薄くて目立たない僕を。糸も、簡単に。


「んー。というか俺、普段からどんな人混みだろうと、黒子っちしか見えてないっスよ」

「…へ、へえ……」

「ちょっと!何で引いてるんスか!前から言ってるじゃないスか、大好きな黒子っちしか俺は見えないって。」

「いや、それはあの、恋は盲目的な意味かと思っていたのですが…」

「あはは、まあ、そういう意味もあるかもしれないっスけど…俺、中学の時から黒子っちのことが好きすぎて、正直、ボールより黒子っちを目で追っていた事もあったんスよ?」

「そんなことを、僕に疑問系で問われてもですね…」



だけど、嬉しかった。素直に、嬉しかった。

中学のときから好きだったのは、僕だってそうだ。
だけど、何よりも黄瀬くんはバスケが好きだった。自分より強い相手、本気で張り合える相手、尊敬している青峰くんと1 on 1をしては生き生きとしていて。…だからあの時の僕は、彼には必要ないんだとずっと思っていたから。



「だけどね、もちろん、ずっと見ていた黒子っちからパスをもらえた時は、とてつもなく嬉しかったんス。同じコートで、一緒のユニフォーム着て。」

「…そして、僕のパスを受け取ってくれた黄瀬くんがシュートを決めてくれた時は、僕もとっても嬉しかったんですよ。」

「あれ、黒子っち今日はやけに素直っスね?」

「うるさいです、黄瀬くんのくせに。」

「ええ!」



僕だって、素直に君に伝えたいことを伝える日だってあるんです。こういう日くらい、僕の素直な気持ちを受け取って欲しいものです。


それから、僕たちは街をブラブラした。気になったお店に入ったり、本屋さんで雑誌を立ち読みしたり。
そして、日も暮れが近くなって来た頃。黄瀬くんがオススメだというカフェで落ち着くことにした。

案内された窓側の二人席について、時間が経つと共に、会話が弾んでゆく。



「黄瀬くん、そういえば、何を買ったんですか?」

「あ、これっスか?これはーー…」



そして、さっきの雑貨屋の手提げ袋を指差して、僕は中身が気になり直接聞くことにした。すると彼は、少し照れ臭そうに苦笑いしながらも、袋を開け、中身を見せてくれた。



「これ…っ!」

「ふふ、これも、お揃いっスよ。」

「可愛いですね。キーケースですか?」



黄瀬くんが手にしたのは、黄色と水色の可愛いデザインのお揃いのキーケース。

一緒に住みはじめてから、よくよく考えれば今日でちょうど一年目。黄瀬くんは、そのことを大切な記念日として、きっとこのキーケースを贈ってくれた。僕は、渡された水色のキーケースをまじまじと見つめて、こんなにも僕は大事にされているんだと実感した。



「これからは、お揃いのキーケースを付けた鍵で、黄瀬くんと同じ家に帰れるんですね。」

「そっスよ。これからも、ずっとね」

「ふふふ、また、お揃いが増えましたね。」

「お揃いっスね」



大切な同棲生活一年目の今日は、お揃いのキーケースをつけた鍵で家の扉を開けて、一緒にお風呂に入って同じ匂いになって。それから、お揃い購入したマグカップで同じ濃さのコーヒーでも飲んでゆっくりしましょうか。



「さ、帰ろう」

「はい。」








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最近、黄色と水色が仲良さそうに並んでいるのを見ると、幸せな気持ちになるんです。
きっと、黒子っちも、黄瀬くんも、同じことを思ってくれているはず。


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