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梅雨入りしたとニュースでやっていたのはついこの間のことで、毎日のように学校に傘を持っていく日々が続いていた。
「あ、傘ない」
ナマエが学校の玄関前の傘置き場で呟いた。たしかに彼女は朝……つまり登校時には傘を持っていたように記憶している。……ただし、ごく普通のなんの特徴もないビニール傘だが。
「盗られたか?」
「そうみたい。あー外、わりと降ってるよ。どうしよう」
「入ってくか?」
「うん!ありがとー!!」
俺は自分の紺の傘を持ち上げて、そう告げればちょっとだけ明るくなる彼女の顔。……この笑顔が好きなんだよなぁ、俺。
紺色のでかい傘をぽん、と開いてローファーに履き替えてるナマエを待つ。ぽてぽて隣にローファーを履き終わったナマエがやってきて、これまた楽しそうな顔で言う。
「えへへ、相合傘だね!」
「ばっか、意識しねぇようにしてんだから言うなよ」
「あれ?そうなの?」
相合傘での距離の近さなんて気にしてないとでも言うように、彼女はまた笑う。
「傘、俺のがあって良かったな」
「ん?そうだね」
「ナマエの傘じゃ2人は小さいだろうしなぁ」
俺の傘でならぴったりくっつくほどいかなくても多少は余裕がある。ナマエのだったらこうはいかないだろうし、二人とも肩が濡れてしまっただろう。と考えていたら彼女が俺の制服の裾を引っ張った。これは話を聞いてほしいときのナマエの癖だ。
「まあ確かに……あ、みてみて紫陽花!!六月ーってかんじ」
「お、本当だ」
ナマエはそのまま俺を街路樹の紫陽花が咲いているところまで引っ張っていく。
「カタツムリいないかな」
「横のコンクリにならいるぜ」
「なぜ!!」
「なんか、コンクリからカルシウムを摂ってるって聞いたわ」
「コンクリ食うのか、カタツムリ……」
紫陽花とカタツムリという絵に描いたような図が見たかったらしい彼女はちょっと残念そうな顔をしていて思わず笑ってしまう。
紫陽花から離れ、本来の道に戻ると他愛もない話をしている間に家についた。
彼女と俺の家は隣同士。いわゆる幼馴染ってやつだ。ナマエを家の玄関の濡れないところまで送ると、玄関のドアを開けてこちらに振り向く。
「今日はありがとね!レオリオ!」
「おう、俺が傘盗られた時はお前のに入れてもらうからな」
「じゃあとびきり可愛い傘買わないとだ!」
それはやめてくれ、って苦笑すれば、彼女がまた笑う。梅雨の季節のじっとりとした空気を吹き飛ばすような笑顔で。
(レイニーハッピースマイル end)
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