「あれ…?みかママ、シュウは?」


サエキ家のインターホンを押したけど、シュウは出てこなかった。せっかくリストアップしたテストのヤマをおすそ分けにきたのに。こんな時間にいないことって、あるんだ。


「そういえば今日は部飲みだって言ってた…。あの子一応部長だから…」

「え?」

「……千鶴、知らないの?今年の春からそうみたいよ」


シュウ部長なんてやってるんだ。そんなこと、全く知らなかった。なんだか鈍器で殴られた気分。「あの子、千鶴にはなんでも話してるんだとばかり……」みかママの言葉があたしに追い撃ちをかける。

「あー…そうなんだ」

いつからか、シュウはあたしと距離を置いた。でもシュウはうまくて。あたしは距離を置かれていること自体にも気づかなかったみたい。それを思い知った今、あたしは足元から地面に沈んでいくような感覚に陥る。
「……じゃあ、みかママ。シュウが帰ってきたらこれ渡しといて」


不意に、傷つけられる。あんなヘタレなやつなのに。あたしを傷つけるのが、すごくすごくすごく上手。そんなところうまくなったって、何もいいことない。

みかママにプリントを渡すと、足早に低い垣根を越えた。あたしとシュウの家は、この低い垣根を越えるだけの距離。

でもあたしとシュウは、もうそれだけの距離じゃなくなってしまったのだ。


「ばかみたい」


憤りと切なさが、沸騰したように沸き上がってくる。沸き上がって行き場をなくしたそれらはあたしの瞳からこぼれ落ちた。

いつまでも歩み寄ろうとしていたのは、あたしだけだったのかもしれない。


「………」


雫となってこぼれ落ちた涙はあたしの足元を少しずつ崩しいく気がした。




「よくある話でさ、幼なじみで仲良かった男の子に急に避けられて…とか言うけどさ」

「うん」

「シュウ、ヘタレだし。あたしたちはそうならなそうだよね」

「…うん」




所詮、
あたしたちだって、
よくある2人だったのだ。