わたしはその襟足がきらいだ。






元来わたしはボブが好きだった。それも男の子のするボブという髪型が。なんというかあの可愛いともかっこいいともつかない曖昧な感じ。一直線になった襟足。ときめく。大好き。たまらない。現にわたしの彼氏の今の髪型もボブだ。彼のボブ、すごく好き。……たぶん。

でもこの世にわたしがどうしても好きになれないボブがあって、そのボブはこいつのボブだった。

「ねえ、課題終わってんだろ?見せろよーけちー」

「全くうるさいなあもう、勝手に上がるな!」

とりあえず朝からこんなに大声を出したく無いし、うだるような暑さのなかわたしはエアコンのリモコンを探しているのだから邪魔しないでほしい。

「てか彼氏とどっか行かないの?」

「明日行く」

ここはわたしの家なのに。泣きたくなりながら堂々とソファでくつろぐ男を見る。この男は最近髪を切り、ボブにした。わたしがボブにしろしろうるさかったときには頑なにしなかったくせに、わたしに彼氏ができた途端、ボブにしだしたのだ。なんという天邪鬼野郎。


「ふーん」


つまらなそうにわたしを見る。わたしがずっと、ずっとずっとずっとすきだった、その顔。

「リモコンならここにあるよー」

のろりとお尻の下からエアコンのリモコンを取り出す。

「最低!よこせこのやろう!」

「やーだ」

憎たらしい笑みを浮かべる。高く頭上にあげられたリモコンを取り上げようとしてもまるで届かない。わたしの手はその襟足を掠めるかかすめないか、その狭間を行き来している。





わたしはその襟足が嫌いだ。

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