少し濁った甘い液体




じりりと照りつける日差しが痛い。
今日に限って、日焼け止めを塗り忘れた。
非常に悔やまれる。
でもたぶん学食で冷たいたぬきうどんをすすったら忘れる。
その程度。

「緒方ー」
「あん?」
「女のくせに、んな返事すんなばーか」
「差別はんたぁい」
「うっせ」

こっちの台詞だ。
どれほど汗が滴っているかお前も見えてるだろう。
いや、化粧が崩れてるから見るな。さっさと行け。

「チャリじゃねえの」
「じゃねえの」

そうですこの炎天下を歩いています分かったらさっさと行け。

「後ろ乗る?」
「汗かいてるから乗らない」
「乙女かよ」
「うら若き乙女だよ」
「乗んなよ」
「やだよ」
「あっそ」

よし、走り去れ、と思った矢先だ。
何を思ったか、こいつは自転車からひょいと降りて、私の横を歩き始めた。

「緒方ー」
「……何」
「ほい」

「ひっ」

「ふふん、冷えっ冷えのスポーツドリンク!お裾分けだ」
「普通に渡せよ!首に当てんな!」
「はいはいごめんごめん」

ひったくるようにして受け取ったそれは、すごく美味しい。

「ありがと」
「いえいえ、じゃーね」

そう言って唐突に自転車に飛び乗って、猛スピードで坂をかけ上がる背中。
を見ながらスポーツドリンクをぐい、と煽る。

日陰まであと少し。
それでもきっとこのスポーツドリンクの味は忘れない。
暑苦しい彼の背中も、あの声も、ずっと前から刻まれて離れないのだから。


ねえ、どうして籠に、鞄とスポーツドリンク二本入ってたの?





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