そうやっていつも僕を呼ぶね 長く、恋をしている。 "それ"を唯野(ゆいの)から聞いたのは、昨日のことだった。 まったくもって不愉快極まりないのは、唯野が僕に可哀想にと言わんばかりの目をしたことだ。 迷わず腹に蹴りを入れると殴り返されたが、その目はもう憐憫を含んでいなかったから、僕は甘んじて受け入れた。 ということはなく、その拳をかわして逃げおおせた。 怒声に追われながら校門をすり抜け、無事家に帰ったのだ。 女の恋愛は上書き保存で、男の恋愛は名前をつけて保存だと、どこかの誰かが言っていた。 いつだって女々しいのは男で、女はいつだって男らしい。 もう逆なんじゃないのかそれは。 いっそ、男らしさとは女々しさである、と宣言してみたい。 なんて、思っても言葉とはそう易々と変わらないわけで、僕は今日も女々しい。 そして今朝、唯野は朝だと言うのに僕を一度殴り付けた。 うずくまる僕に腹立たしくも、大丈夫か、と声をかけてきたが、それは殴ったことなのかそれとも昨日の話のことなのか分からなくて黙って睨み付けた。 僕は、いつものように唯野の隣を歩いて登校した。 いつものように靴を履き替え、階段を上り、ドアを開き、席につく。 いつものように鞄から教科書を取りだし机に詰め込み、いつものように席を立って廊下で馬鹿騒ぎをする友人たちに近寄る。 「おはよう、鷹山」 いつものように僕を呼ぶ声に振り向く。 「おはよう」 いつものようににこやかに返事をする。 そうすると君は、僕の知らない他の男の隣で笑った。 本当に長く、恋をしていた。 title by 満ち足りた夢の渦(link内別館) back |