ぼくらモンスター




手を繋ぐ。
無言のまま夜道を進む。
きみの歩幅に合わせて、景色はゆっくりと流れていく。

「がおー」

ふいに横で呟く声がした。
なんだよ、と笑うと、真顔でーー暗闇に紛れてよく見えないがーー答える。

「怪獣が二人いるんだよ、がおー」

くすくす笑って、僕は握る手に少し力を込める。
そうだね、がおー。
僕は、ねだられたプリンと僕の買ったビールを詰めたコンビニの袋を揺らして、がおー、ともう一度呟いた。

「怪獣、町みんな壊せちゃうね」

でも、きみは優しいからそんなことしないだろ?

「どうかなー?」

しないよ。

「そうだね」

くすくす笑って、その小さな手が僕から離れた。その笑い方、なんだか僕に似てる。
気がつけば我が家が目の前で、小走りに玄関に向かっていく姿が見えた。
鍵は僕が持っているのに。

「はーやーくー!」

小さな身体で跳ねるきみのもとへ、はいはい、とビールを振らないように早足で向かった。
ガチャリと慣れたドアを開けると、楽しそうに靴を脱ぐ背中。

「ただいまー!」
「おかえりなさい」

奥から顔を出す妻に、僕もただいま、と笑いかける。

「あのね、きみね、パパとね、怪獣になったの!」
「えー、怪獣?」
「そう!でもやさしいからね、なあんにも壊さないの!偉いでしょ!」
「ふふ、そうね。ママは怪獣になれないの?」
「だめだよー、夜にお外に出た人しか怪獣になれないのー」
「そうなの?残念。じゃあママ、きみちゃんに食べられちゃうの?」

きみは優しいからそんなことしないもんな?
妻に抱き上げられた娘の頭を撫でる。
怪獣の親子が散歩したんだな、と思うと、それがなんだか楽しくて僕はビールを飲みに居間へ向かった。




title by 満ち足りた夢の渦(link内別館)





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