泣きそうにわらった等身大の女の子の姿が、またはるかの脳裏を掠めた。
『ごめんね……こんなこと、話すつもり無かったのに……、ごめんね……』
そのあんまりな強さを、孤独を、痛々しさを、今のはるかはまるごと抱き締めてやりたかった。
ただただ無垢で可憐な、純粋な乙女の言葉と姿を忘れる日など、永遠に来ないと断言出来る。
あの日、あのとき以来、はるかはみちるの弱い部分を欠片も垣間見ることが無かった。
それが悔しい。
いつも弱いのは自分で、揺れるのは自分で、迷うのは自分だった。
みちるはそんなはるかをいつ何時でも、その慈愛でもってまるごと包み込むのだった。
みちるの胎内にいるような錯覚を、いつだって、起こしている。
否、実際そうなのかもしれなかった。自分は一番安全な場所で、安らかな、暖かい優しい場所で、みちるに護られている――それが堪らなく幸福で、又、堪らなく悔しかった。
「はるか?」
凛、と魂の片割れが自身を呼ぶのに、顔を上げた。
みちるは完全に乾いてはいない水着姿で、豊かな髪をタオルで拭いながら、微笑んでいた。
「また、考え事?」
みちるがそっと近寄るのに、既視感を覚える。――あなたの手が好きよ。
(そうだ、あのときだってみちるは、僕を包んだ)
情けない。思わず自嘲が漏れる。
「はるか。そんな顔を、しなくっていいのよ」
完全に距離を縮めたみちるははるかの両頬を包み、深い海の瞳で、やはり微笑むのだった。
「あなたが私にどれだけのものを与えてくれたか――あなた、わかっていて?」
「わからない」
与えるのはいつだって君じゃないか。僕は貰ってばかりだ。
はるかは唇を咬んで俯く。
「君を包んでやりたい」
「……」
「泣いて欲しいし、頼って欲しいんだ、本当は。君がやわらかくって無垢な女の子の側面を、僕に見せられないだけだとも知っているつもりだ。……ふっ、情けないな」
「そんなこと、」
「あるさ。そう、例えば……君が命を落としたならば、僕は直ぐに君の後を追う。事実、そうしてしまった。だけれど僕が死んだとして、君は僕のすべての記憶をいとおしみながら、生きていくんだろう」
「それは違うわ」
きっぱりとした声に驚いて、はるかはいつの間にか伏せていた瞳を上げる。みちるは険しいともとれる表情で、はるかを居抜いた。
「はるかがいない世界なんて、私、これっぽっちも興味が無い」
「みちる……」
「はるかがいない世界で生きることに、何の意味があるの? どうでもいいものだわ、そんな世界。いらない。……はるか、どうかよして頂戴、そんなことを言うのは。そう、あなたが私の世界そのものなんだもの。私に価値を与えるのはあなただけ。勿論、無価値にしてしまうのもあなただけ」
それきりみちるは黙り込んでしまった。
震えるその肩がどうしようもなく、ただ、愛しくて、気付いたときには既にみちるを自身の胸に閉じ込めていた。
「あなただけよ、あなただけなの……」
みちるは泣いていた。
はるかは後悔と幸福がない交ぜになって、ただみちるをきつく抱き締める他無いのだった。
( 君に逢えてよかった )
人生初はるみち。
はるみちに狂いそうで,ダーッと書いてしまいましたが,わたしのカリスマ知識など,Sのタリスマン出現の辺りまでです。
原作を読んだのは遠い遠い昔,はるみちの過去から未来に掛けての何も彼もを知らない分際でカリスマ界に足を突っ込んでしまいました...も,申し訳ございません...
みちるからはるかへの呼び方,“あなた”か“貴方”か“貴女”なのか,個人的にとても大きな問題なので,今後変わっていくかもしれません。いかないかもしれないけれど。
兎に角百合界のカリスマに逢えてよかった。ありがとう,ありがとう。
ばかみたいに長い端書き,失礼致しました。
20110901/20110911(改稿)
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