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 卒業前の話

来神静臨です。







卒業式が待ち遠しかった。

やっとみないですむ。忌々しい顔を、この、不愉快な笑顔を。

「ドタチン、なに読んでんの?」
「…………」
「…料理本…?もし作るなら俺のこと呼んでね、試食したげる」
「…………」

臨也を無視して本を読む門田に、無視されていることを無視して臨也が嬉しそうに話し掛ける。苛々、苛々する。

ここ数週間、卒業式に向けて色々な準備が始まった頃から臨也は毎日のように門田に会いに来る。
最初の数日は顔を見せるなと机を投げつけたが、何回目かで門田に自分が見張っておくから好きにさせてやってくれと頼まれて、それからは仕方なく苛々を我慢していた。
臨也は本当に門田に会いに来ているだけらしく、喧嘩を売ってくることも、挑発してくることもない。ただ門田に話し掛けて、飽きたらぼんやりと門田を眺めてたまに嬉しそうに笑う。

卒業までに、少しでも傍にいたいとか、そういうことなんだろうかと。気付いてしまってからずっと、腹の底からどろどろしたなにかが重い。

どれだけ睨み付けても、まるで俺なんか見えてないとでも言うように門田に向けられる笑顔が本当にどうしようもなく大嫌いだった。

卒業すれば、やっと見なくてすむ。もうあと一週間もない、もうすぐ今みたいに会えなくなる、ざまあみろ。

捨て台詞のようなつもりで悪態をついていい加減目を逸らそうとすると、臨也が顔を上げてぱちりと目があった。

「っ………」
「…シズちゃん、なにか用?」

軽く眉を寄せて、臨也が立ち上がる。用なんて、あるし、ない。少なくとも聞かれて答えられるような用事なんてなかった。ただ、目が離せなかっただけだ。

「か、どた、迷惑だろうなと思って見てただけだ。」
「…ドタチン、本に集中してるとき俺の声なんてBGMだから大丈夫だよ」
「…………」

かたん、と自然に隣に座って臨也が頬杖をつく。なに、してんだ。
こんなに近くで、自分に声をかけてくるなんていつぶりだろうか。
匂いが、体をめぐってひどいことになってる。

「もうすぐ、卒業だね。」
「…………」
「シズちゃんと喧嘩することも、なくなるのかなぁ」

俺の方なんて見ないで、独り言のように呟く。
それでも、いい。学校にいる間中ずっと鼻につく匂いが感じられなくなっても、楽しそうに喧嘩を売ってくる顔を見れなくなっても、自分が大嫌いな暴力を奮って臨也の企みをぶっ壊したときの殺意しかないような視線が向けられなくなっても、
自分じゃない人間に執着する姿を見せつけられるよりは、ずっとずっといい。

「卒業したくらいで逃げれると思うんじゃねぇぞ」
「……やだな、水に流してよ」

くす、と小さく笑う臨也はぼんやりと穏やかだ。
こんなとき、どっちが正解だなんて考えてしまう自分はおかしい。

「…流して、たまるか」
「うん、そうだろうね」

目を細めて、臨也がかたんと立ち上がる。
どっちだ、
自分が発した言葉は、臨也の興味を引くことができたのか。どうすれば門田より自分を選んでもらえるのか。

行くな、と腕を掴みたくて、出来ることなら腕に閉じ込めたくてでもできなくてぎりと歯を軋ませると「こっちの台詞だよ」と手を掴まれ、ちがう、手を握られた。

「俺だって、逃がしてあげないんだから。」





ぱちり

まばたきが出来たときには臨也はもう門田の隣でまたにこにこ笑っていて、まるでいま一瞬のことが夢だったみたいに。


ああそうか、そっか。



(やっぱり、惜しいかも)


毎日、会いに来てたのは―…


end

ドタチンはぜんぶ知ってました。



カエルさんに捧げます。

遅くなってごめんね><



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