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 寒い日の話。

寒がり臨也さんに片想いシズちゃん。




「………」
「………」
「…シズちゃん…あったかい…」
「……つめてぇよ…」

腕の中で臨也が呟く。あったかいと言いながら臨也の身体はまだ冷たい。

雪のように冷たい手に自分の手を重ねると、臨也が小さく震えた。

臨也は軽く常軌を逸した寒がりだ。クーラーが寒いからと夏でも暑苦しいファーコートを着てるし、冬はコートの下に5枚も着込んでると胸を張っていた。そしてそれくらい寒いんだから大人しく抱き締めろと、俺に対してではなかったけど。

今日は久し振りに寒い日だった。昨日までの春を感じさせる気温のせいで油断してたのかもしれない。

自分と対峙する臨也の、ナイフを持つ手は小刻みに震えていた。その時はなんでか分からなかったから、とりあえずビビってんのかと口角を上げて見下すと「寒いんだよ!!!」と怒鳴られた。

びくっと肩を跳ねさせたのは俺だけじゃない。さっきまで捲き込まれないようにと距離を取っていた周りの人間も、臨也の声に反射的に臨也を見て、信じられないような顔をする。

折原臨也が怒鳴った、知っている人間にはそれがどれだけ稀有なことかよく分かる。

攻撃のために引き抜いた標識を持って呆然としていると臨也がチッと舌打ちをして眉を寄せる。そんなに嫌な顔しなくてもいいだろとか意味のわからないことを考えながら臨也を見ると、ナイフを持ってない方の手をポケットに突っ込んで臨也が呟く。

「ドタチンどこだよ…」
「っ、なんで門田が出てくんだ」
「寒いって言ってるだろ!人の体温がいちばんあったかいんだよ!」
「………っ、動いてたらそのうちあったかくなるだろうが!」
「ナイフ持ってる手が冷たいんだよ!もういいからさっさと死ねよ!」

キッと本気の殺意を宿らせて臨也が地面を蹴る。ナイフを持つ手が、じゃあ持たなけりゃいいだろうがとか、人の体温が、なら俺は昔からずっと新羅に子ども体温だと言われてたんだとか。そんなことがぐるぐる回って飛び込んできた臨也のナイフを叩き落としてそのまま腕の中に閉じ込めた。

俺があっためてやるよ。声に出して言った台詞に返ってきたのは甲高い叫び声だった。なんで臨也ではなく関係ない女たちが叫んでたのかは知らないが、あの時の臨也は声と顔色を失っていた。

「あの…シズちゃん、もう十分あったかいから大丈夫…」
「どこがだよ、血ぃ通ってないんじゃねぇか…」
「冷え性なだけだから」

もういいからと繰り返す臨也はまだ怒っているのだろうか。きっとまだ、冷たいから機嫌が悪いんだ。

無言で腕を引く俺を制止しようとする臨也の声を無視して、自分の部屋に連れ込んでベッドに押し倒して抱き締めた。別に、変なことを考えたわけじゃない。ただ、俺を拒否して門田のとこに行くのかと思ったら体が勝手に動いただけで。
だって、俺が居るんだから俺に集中するべきだ。いつもいつも、高校生のときからいつも、俺のことなんか見向きもしないで門田ばっかりだった。陥れるのは俺なのに、甘えるのは門田なんて不公平だ。

今、その不公平が少しだけ緩和されている。まだまだ足りない、抱き締めて、手を握って、あっためるくらい、俺にもさせてくれてもいいじゃないか。

「……シズちゃん…」
「…寒ぃんだろ、こんな手じゃまだナイフ握れねぇよ」
「…………」
「別に抱き殺したりしねぇから、素直に抱き締められてろよ」
「……きみさ、なにいってるかわかってないだろ…」
「…………」

だんだん赤みを帯びてくる顔色に、自分の体温までじわじわと上がっていくのを感じる。撫でた手が雪から臨也の体温に変わっても、俺より冷たいならまだもう少しくらいこのままでいいだろう。

臨也こそ分かってない。

大きな声で怒られて、嫌な顔で拒否されたくらいでこんな意味のわからないことをしてしまうくらい、俺はお前に怯えてるんだ。

はやくあったまって、機嫌を直して、ナイフを手にとって

いつものような不敵な笑顔で、俺だけの臨也になってほしい。

あんまり怒るなと言い聞かせながら頭を撫でるとまた震えた臨也の表情は、抱き締めてたせいでわからなかった。




end

臨也さんに怯えるシズちゃん可愛いなって。


三基さんに捧げます。
空気の読めない挙手すみませんでした…><



2012/3/9



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