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 おはようからおやすみまで



折原臨也の朝は早い。

正確な時間は知らないが、早いはずだ。
午後2時、自分がやっと歯ブラシを口につっこんだタイミングで奴はチャイムを鳴らす。合鍵なら持ってるくせに。
俺が用事をしていようと、なんなら毎日歯ブラシを銜えてドアを開けていようと構わずにドアの外で自分を待っている。

「蘭くん! おはよ! クーラーつけていい?」
「……勝手にひろ」
「はやく顔洗ってきなよ。ウィダーもらうね。」
「…………」

臨也はリビングに向かう。
俺は洗面所に戻る。
クーラーの電源が入る音に遅れて、冷たい風が短い廊下を経由して滲んでくる。
タンクトップにジャージの自分にはまだ不要な冷気だが、言ったところで聞くやつじゃない。
適当にうがいして顔を洗う。
顔面の火傷も見慣れてきたなと、奴といるとため息を吐きたくなることばかりだ。

「蘭くん、おはよ」
「…………」
「蘭くん、お は よ」
「もうはやくねーよ。……はよ。」
「ふふ、おはよー!」

とん、と畳を叩いて臨也が自分を見上げる。定位置に座る臨也の後ろに腰掛けて腕を回す。
火照って、あちぃ

「はぁ、今日は疲れたよ。」
「ああ」
「外暑いし、クーラー寒いし」

「夏、きらーい」

ずるる、と胸から臨也が崩れる。だらしない奴。
コイツの私生活を知ってる奴はだいたい同じことを思ってるはずだ。

「まだ予定あんのか」
「終わらせてきたよ。蘭くん、おやすみしよう」
「……さっきおはようっつったとこじゃねぇか。」

ウィダーを口にくわえたまま、臨也の目が微睡んでいく。
ああくそ、また一日が潰れた。

折原臨也の朝は早い。
正確な時間は知らないが、自分の起床時間にはすべての予定を済ませて就寝時間にできるくらいには。

その朝の早さが、自分の時間を拘束するためだとしたら。
世迷い言が浮かぶのは、体温と外気温の温度差のせいだ。



End

2015/07/04

架咲さんに捧げます。



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