gift | ナノ

 for myself

六臂ちゃんと臨也さんとシズちゃんがホストのていです。






思いついたのは臨也が眠たいとあくびをしたとき。
お疲れの臨也を助けてあげられたらなって思って、それから代われるなら代わってあげたいなって思った。
俺がお仕事に行くから、その間臨也はお休みすればいいよ。
俺は臨也のためならお仕事なんてぜんぜんしんどくないんだからって。
気付いたのは臨也の代わりに電話に出たとき。
臨也のお仕事の人がそのまま話し出して、そういえば他の人たちには同じに見えてることを思い出した。


「折原さん、4番テーブルからご指名です。」
「はーい、今行きまぁす。」
 呼ばれた臨也の名前に振り向く。オーナー四木さんは臨也の大事な人だから、大事って言ってもお仕事の人だけど。臨也が好きな人にいつもするように、前を通るときに肘をとんと叩いてにこって笑う。
 臨也と比べると見劣りもするだろうけど、造形はだいたい同じらしいからきっと俺の笑顔だってそれなりには可愛いはず。くるんと店内に足を向けて一歩。後ろからぽんと頭を撫でて「今日もありがとうございます。」と褒めてくれる四木さんは、臨也に優しいから俺も大好きだ。
「臨也くんっ! 会いたかったぁ!」
「お疲れ様可愛いお姫様。なぁに、またこわい先輩に怒られちゃった?」
「そうなんだよ、わたし悪くないのにー!」
「ハハ、いつも大変だね。」
会うなり両手を広げる女の子の、小指にはめられた指環を確認して手を絡める。ペリドットに星の装飾、は、ハグに応える関係じゃない。えっと、そうだ先々週臨也がおみやげにチーズフロマージュを買ってきてくれた日。先輩が怖くて厳しいから、誰かに聞いて欲しいんだって言ってた。
「俺でいいなら付き合うからさ、聞かせてよ。こわい先輩の面白い話。」
「もう、臨也くんはすぐに面白がる。」
「だって楽しいもの。俺の可愛いお姫様は悩んでる姿も愛しいからね。キティでいい?」
「うん、臨也くんも好きなの飲んでね。」
「ほんとに? ありがとう、紀田くん! キティとウーロン茶お願いね。お腹は空いてない?」
「うーん。臨也くんが食べたいものがいいな。今日はウーロン茶なんだね。」
「前は他のお姫様も居たからね。ジンジャーエールの方が格好いいかなと思ってさ、紀田くん俺何食べたいかな?」
「あはは、変わらないよぉ」
「そう? まぁいいじゃない、こんな俺も可愛いでしょ。」
「野菜スティックお持ちしますね。」
営業スマイルで紀田くんが頭を下げる。紀田くんは臨也の後輩くん。何回もうちに遊びにきたことがあるから、もしかしたら気付かれるかもしれないと思ったけど意外に鈍感さんだったみたいだ。
お仕事のときの紀田くんはいつもよりいくらか増しでツンツンしてて面白い。
臨也に言ったら「したっぱの仕事は大変だからね」って笑ってた。紀田くん、お仕事以外の時もしたっぱの方なのにお仕事だともっとしたっぱなんて毎日大変だなって思った。
「それで、どんなことがあったの? 聞かせてよ、君の話。」
「っ、あ、あの、ね…」
唐突に肩を抱いて、引き寄せる。女の子耳と俺の唇が紙一枚分。触れたと勘違いさせて、そのまま屈んで視線を合わせる。
女の子が下を向いて、小指の指環を見つめたら成功だ。
臨也に教えられた女の子の繋ぎ方は、ホスト初めましての俺にもとっても簡単に出来て流石臨也だなって思う。ここまで出来たらちょっと待っててねでいつまでもいい子で待っててくれるから、乾杯して一口飲んだらウーロン茶を置いて次の女の子のところに遊びに行かなくちゃいけない。臨也以外の長話を聞くと俺寝ちゃうからね。聞いてなかったなんて言ったら、臨也が困っちゃう。覚えてれる話のうちに切り上げるのが大事なんだ。
「四木さん、次はどこのテーブルに?」
「13番テーブルへお願いします。」
「じゅうさん……」
あそこ……ううん、大人数だ。目印、みつけられるかな……。臨也がつけてくれた目印がないと、全員同じ顔に見える。
「真ん中の、赤い服の女性にはピアスをプレゼントしたと仰有られていましたね。」
「あと、ショートカットの女の子の髪留め臨也さんがあげたのですよね。今日も付けてきてくれてましたよ。」
「……ハハ、みんな健気だなぁ。」
そうか、あの子とあの子……。オパールのピアスがお酒弱くて、ローズクウォーツの髪留めは日本酒と焼酎だったかな。
お酒を勧められたらシズちゃんに振ってやればいいって言ってた。シズちゃん探しとかなきゃ。
「四木さん、シズちゃん今はどの席に」
「静雄さんお帰りでーす!」
「! シズちゃんっ!」
「っ、ろ」
「おかえり! ろ?」
「……なんでもねぇ。ちゃんとやれてんのか」
「うん! 駅までお見送りご苦労様! ナンバーツーはお客様のご機嫌取りに必死で大変だね!」
「別にご機嫌取りでやってる訳じゃねぇから、仕事終わったらお前もマンションまで送ってってやるよ。」
「ええ、いらないよ気持ち悪い。シズちゃんになんか優しくされたくないね。」
「……接客中じゃなかったのか?」
「そうだよ! なんてったって俺はナンバーワンだからね、忙しいんだよ君と違って!」
「おう、無理すんなよ。」
「……はあい。」
ぽんぽん頭を叩かれて、お返事にくるんと肩を回される。臨也はシズちゃんと仲が悪いって言うけど、お仕事のときのシズちゃんは結構臨也に優しいと思う。
臨也、実はみんなに大事にされてるもんね。一番大事にしてるのは俺だけど!
「お姫様たち、今日も来てくれてありがとう。」
臨也臨也、今日も俺、臨也のためにお仕事頑張るね!


ピンポーン

『はいはい、はーい』
「連れて来たぞ」
『あっ今日はシズちゃんなんだね。ありがと、上までってお願いできるのかな?』
「……ここまで来たら大して変わんねーよ。」
「だよね。よろしくお願いします。」
ふふ、と小さい笑い声に遅れてオートロックが外れる音がする。これまでぶち壊さないと踏み込めなかった臨也のテリトリーに、正面から入る事が多くなった。
臨也と同じ顔の男を抱えながら、寝顔も同じなんだろうかと考えてしまって唇を噛む。妙な誤解でただでさえ芽のでない種が腐ってしまったらどうするつもりだ。所謂お姫様抱っこから俵を担ぐ形に抱え直して、空いた手でインターフォンを、押す前にドアノブが上下してさっきよりもクリアな笑い声が聞こえた。
「お姫様抱っこはどうしたの? 中々絵になってたのに。」
「なってたまるか。……ソファーでいいのか?」
「うんお願い。ココアとレモンスカッシュと、作れば桃と林檎のスムージーができるけど」
「……アイスココア。」
「オッケイ、生クリーム乗せてあげるね。」
「…………」
ぱちんと片方だけまばたきをして星を散らす。
この時間、このシチュエーションでだけ自分は臨也と天敵以外の関係になれる。
こいつの、おかげだ。
突然やってきて隔日で臨也の代わりに働きだした六臂が、この時間を作ってくれた。
「今日は何時まで起きてられたの?」
「日付変わった辺りで紀田が後ろに引っ込めてたから、そんなもんじゃねぇか。」
「そっかそっか。頑張ったね、六臂ちゃん。」
「……んー…」
美味しそうなココアとクッキーを机に置いて、当然のように臨也が六臂の頭を膝に乗せる。
さらさら髪を撫でた手に鳴った喉を誤魔化したくてココアに挿さったストローをくわえて目を逸らす。
やりてぇし、されてぇ。
臨也にアイスココアを振る舞われて向かい合って談笑しているなんて奇跡的な現状でもまだこれ以上を望むんだからもうどうしようもねぇな…。
こうして六臂を送ってくることだって、自分だけの仕事じゃないっつうのに。
「……寝れてんのか。」
「六臂ちゃんのお陰でね。もう連勤は出来る気がしないなぁ…」
「ハ、隠居老人かよ。」
「みたいなものだよ。最近は勤務してても飲むことが少なくなってきたし……シャンパンコールはもう無理かな…ジンジャエールにしようよジンジャエールコール。」
「どんな健全なホストクラブだよそれ」
酒が飲めないらしい六臂を替え玉にするために酒断ちをする前は、わりとよく見ていた光景を思い出して懐かしくなる。
ついに肝臓がだめになったのかと嫌みに聞こえるように険を持たせた声掛けに『シズちゃんにはどうせ分かるだろうから楽しみにしといてよ』と目を細められたときには、まさか臨也と同じ顔がもうひとつあるだなんて考えもしなかった。
ず、といつの間にかココアがもう最後の一口になっている。長居は出来ない。そんな関係じゃない。じゃあなと腰をあげると、臨也の視線だけが動く。
「シズちゃん、今日も出勤?」
「……おう。」
「じゃあ久しぶりに飲み比べでもやろうか。ジンジャエールで。」
「いや誰も得しねぇだろソレ」
「ハハ、いいじゃない俺が楽しければ。」
「…………」
俺と会話しながら、もう視線は六臂に戻ってる。愛しげに頭を撫でる臨也の旋毛を見下ろして手が疼いた。
撫でたりしたら、怒るだろうか。
「…………」
「シズちゃん、どうかしたの?」
「っ、な、なんでもねぇよ。じゃあ、な。」
「うん、また後でー」
よこしまな考えが、読まれたみたいなタイミングで澄んだ瞳が自分を見つめた。くそ、くそ、次だ次……!同じ顔の六臂に出来るんだから、臨也にだって出来るはずだ。
次、がある。
そう思えるようになったのがどれだけ奇跡的なことか、分かってるけどわざと知らないふりをする。
切っ掛けがなんであれ、俺だってずっと欲しかったんだ。

恩を仇で返すことだと分かって一番大事なものに手を出そうとしていること、どうか見逃していてほしい。
すやすやと眠る無邪気な顔に、出来ることなら影を差したくはないのだから。



end

2014/08/16


フォロワーさんからもらったリプにときめいたのでした。

みちひさんに捧げます。
おでここつんできませんでしたごめんなさい(´;ω;`)



prev|next

back

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -