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 Stockholm syndrome

マジシャン六臂くんと小学生臨也くんです。





柔らかい前髪に隠れたきらきら輝くまるい瞳
ふにふにマシュマロみたいにおいしそうなほっぺたに
桜と同じ色のちいさな唇

『おにいさんかっこいい、ですね!』

初めて臨也を見たとき思ったのは、責任をとればいいんだろうっていうはっきりした決意だった。



「六臂くん六臂くん、みて!」
「うん、みてるよ」
「俺じゃなくて、トランプみて!いちまい選んでください」

あれから一年。一年経ったところで小学校低学年な臨也は、すくすくと俺好みに育ってる。

「んー、これ?」
「それ!ハートのじゅう!」
「わ、すごいじゃん臨也。あたりー」
「えへへへ、あのね俺ね、六臂くんはそれを選ぶって分かってたんだよ」
「へえ、なんでわかったの?」
「だってね、トランプの中でハートがいちばんいっぱいなのはハートのじゅうだろ?六臂くんは俺のこと大好きだから、絶対にそれしか選べないんだよ!」
「……っ!」

よこしまなことしか考えられない自分にはあまりに眩しい笑顔が輝く。
ああもう、俺以外に見せちゃいけないマジックがまた……!

「じゃあ臨也もしさ、もしクラスのお友達が選んだらどれになるかなぁ?」
「えー?んー、んー…わかんない。六臂くんにしか選ばしてあげないもん。」
「…………」
「六臂くん六臂くん、びっくりした?楽しかった?」
「うん臨也、とっても楽しかったよ。お礼したいな、してもいい?」
「いいよー!はいっ」

ぱち!と目をつむって、臨也がちゅうと唇をつき出す。はぁ、息が荒くなりそうだ。マシュマロほっぺに手を添えて、こくんと気付かれないように生唾を飲み込む。

「臨也、素敵なマジックをありがとう」
「っ……、ん…」

ちゅう、と唇を吸って、舌先で小さな舌をなめあげる。びくびく肩を震わせながら、なされるがままな臨也が愛しくてしかたない。最後にちゅっと音を立ててつやめいた唇を指で撫でると、ゆっくり開かれた目蓋からとろける瞳が現れる。

「は…ぁ… ちゅ、ありがと。俺、六臂くんのちゅうすき……」

もみじの手のひらでおいしそうなほっぺたをおさえて、これって小学生にさせていい顔じゃないんだろうなと今さら常識的なことが頭を過った。
常識や倫理は、臨也に会うより前に棄てておいたからどうでもいいけど。

「今日のマジック大好きだったからさ、嬉しくていつもよりいっぱいしちゃった。大丈夫?苦しくなかった?」
「大丈夫だよ。六臂くんに教えてもらったの、ちゃんとお鼻で息できるようになったよ」
「……そっかぁ…臨也はすごいね、えらいね、可愛いね」
「えへへへー!ありがとう、六臂くんはね、かっこいいよ」
「……臨也…」

無邪気にはしゃぐ幼い笑顔に罪悪感を感じないわけじゃない。でも自分はこの罪の重さを背負って生きていくことを決めた身だ。なんなら臨也に犯罪じみたことをしてるって事実にゾクゾクするからもう犯罪者で別にいい。

「じゃあ次は俺ね。このトランプ借りていい?」
「ハートのじゅう?いいよ、なにするのなにするのっ」
「臨也が言う通り、俺は臨也のこといっぱいいーっぱい大好きだからさ、いくよ」

「いち、にの さんっ」
「っ!」

ぱちんと弾いたトランプを臨也が目で追う瞬間、掌から生まれた薔薇の冠を臨也の小さな頭にのせる。きらきら、きらきら。溢れた花弁に臨也の瞳の煌めきが反射する。

「すごい、すごいね!六臂くん、じょうず!かっこいい、かっこいい!」
「あは、よかった。臨也のための魔法だよ、喜んでくれ」

ちゅっ

「…………」
「おれい!ねえねえ六臂くん、俺王子様みたい?かっこいい?」

ねだるよりはやく、自分が立てたわざとらしいものとは違う可愛さしかないリップ音が耳に届く。
天使が舞い降りたのかな……?
触れられたところからとろけ落ちそうになる頬をおさえて、薔薇の冠にはしゃぐ天使をなすすべもなく眺め続ける。
臨也は王子様じゃなくてお姫様だよ俺の。使えなくなった言語機能は捨てて心の中だけで訂正すると、「あっ」と声を上げて臨也がハッとしたようにさっき手品に使ったトランプをせっせと捲り始めた。なにを、と言えない可愛さが目を眩ませた。

「六臂くん、好きなところでストップしてね」
「……ストップ」
「ん!じゃあ、いちばん上の、めくってください!」
「…………」

俺って、臨也に対して大概優等生出来てると思う。指示の通りに受け答えをして、今度はいったいどんな可愛いことをして苦しめてくれる気だと歯を食い縛る。
わくわく、がみてとれる期待に満ちた純粋な瞳はそれだけで十分立派な劇薬になる。
臨也になら、殺されてもいいんだけどね。無垢な瞳に重い思いを投げ掛けて、一年前にプレゼントした元愛用カードに指を滑らせる。
教えた覚えのある単純なマジックで、
さあなにを出してくるのかな?

「あれ、臨也なんか落ち」
「はいっ!」
「え……?」

「六臂くん六臂くん、俺のお姫様になってください!」

めくったカードから、と見せ掛けて臨也の袖口から滑り落ちた針金と紙粘土で出来たハートの指輪が小さな手で薬指にはめられる。

うん、うん。

「臨也が王子様なら、俺お姫様でもいいや…」
「やったー!」

俺が責任取ることは決まっているのだから、臨也は臨也で俺をだめにした責任を取るべきだと思うなって。

「臨也、これどうしたの……?」
「ずこうー!六臂くんにね、プレゼントしたくてつくったんだよ!」
「……臨也、これのお礼はちょっとだけ待ってもらってもいい? ちゃんと、したいから。」
「いいよー!俺お風呂で息継ぎの練習して待ってるねっ」
「ありがとう臨也、絶対幸せにするからね。」
「? んー!!」

(何歳になったら、連れてっていいのかなぁ)


End

責任がとれるところまで



2014/06/01
わしゃもじさんに捧げます。



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