シックスセンス
「どうしようか、パレードあと一時間くらいだけど…もうひとつくらいなにか乗る?」

「いい席でみたいんで、そろそろ待機しときましょ」

「うん。いっぱい乗ったしね」

にこにこ笑って臨也さんが繋いだ手を振る。
猫だったりうさぎだったり、動物を可愛らしくデフォルメしたこの遊園地のキャラクターがライトアップされて総出演するらしい夜のパレードは文字通りにきらきら輝いているらしい。

臨也さんから誘われてすぐに下調べをして、これは絶対いい席でみなければと気合いを入れていた。

「にゃーさんの形のピザまんとくまさんの形のカレーまんあったよね。待ってる間に食べたいな」

「どこのワゴンでしたっけ?」

「あれだよ、みんなの家とかあるとこの近く。あそこ他にも食べ物いっぱいあったみたいだからあの辺りでパレード見よ。ね?」

「いいですね、おやつ大事です。」

「また紀田くんのお財布が寂しくなっちゃう予感だねぇ」

「いやいや、次こそ臨也さんに財布出させてみせますよ」

繋いでない方の手で拳を作ってみせるとなんでこんなに弱いのかな君はと拳に声を掛けられた。通算5連敗からは数えるのをやめたけど、もう二桁にはなるだろうに全敗ってどういうことだ。

最初はあまりに勝てなくてもしかして後出しか…!と睨んでみたけど、後出しじゃないよね…って言う臨也さんの声が嫌に深刻で自分の運のなさに首を傾げた。何回目かで不意に今日平和島静雄から臨也さんを奪えたってとこで全部の運を使ったのかと思い至って納得がいったけど。

今日のこの幸せの対価だとするならこの先一生じゃんけんで勝てなくてもいいやと思えてしまう自分にあきれるしかない。

(だって、それくらい)

地図をくるくる回して唸る臨也さんの横顔にきゅんと胸が痛くなった。

「いまここだからー…」

「地図こう向きじゃないすか?ほらあっちにお城でこっちメリーゴーランドだから」

「ほんとだ。じゃああっちだね、行こう」

「はい」

臨也さんが地図をたたんで差し出す手を取って頷く。

今日はなんだかずっと手を繋いでる気がする。離すたびに冷える体温がじわじわあったかくなる感覚が愛しくて、痛い。こんなにしあわせなのに、こんなに笑ってくれてるのに。

こんなに、大好きなのに。

て、だめだよくない。そんなこと考えて変な顔したらまた臨也さんを困らせてしまう。笑わなきゃ。

自分より少し高い位置にある肩にもたれ掛かって息をつくと、あまえたさんなの?と撫でられて耳が熱くなった。

「別に……」

「俺、すきなんだ、こういうの。甘えたり、甘やかしたり」


平和島静雄と、したいんでしょ。

今朝まで言えてたはずのからかいの言葉が出てこないのは、たぶん

「臨也さん、俺」

「ん?」

「臨也さんがこうやって甘えるの、俺にだけだったらいいのに、って思っちゃいます」

心から、言わずにはいれなかった言葉を口にすると、臨也さんがきょとんとしてぱっと手を離した。

「臨也さん…怒っちゃいました、か」



「怒って、ない、よ」



でも


気持ちの浮気はだめなんだよ


両手で自分の頬を覆ってふるふると首を振る臨也さんの耳が赤い理由なんて


(いま、言わなくていつ)



ごくんと息を飲み込む。

汗の滲む手で臨也さんの手を握る。

思い切り一度深呼吸して、

顔を真っ赤にして動揺で潤んだ臨也さんの目をじっと見つめて





ねぇ臨也さん、俺、あんたが

「    。」








xxx


ぞくりと背筋が震えた。



「パレードなー、どこで観るか」

「パンフレットには姫の城を背景に観賞が最良との記載がありました…!」

「おう、じゃあそっち行こうぜ」

「はいっ」

「…静雄、どうかしたか?」

「あー……いえ」

「……そうか。行くか」

「、す。」


ぽんと背中を叩かれて意識を戻す。

嫌な、不愉快な感覚。思い出したのは、がくんと軽くなった自転車の荷台。

変なところで抜けてる、やばいと思ったところでブレーキはすぐには利かなくて、臨也はふわりと宙を舞っていて、

ああ、なんでお前がそこに居るんだ。

狙ったように臨也の落下地点にいた男が臨也を抱き止める。

何の怪我もなかった、怪我をさせずにすんだ、自分は何も悪くなどないけど。

やっと自転車が停止したときには、もう既に表情も確認できないほど臨也と自分には距離があった。

なのに、

ぞくりと、体の芯から冷えるような寒気に襲われる。見えないはずの臨也が、男に撫でられてふわりと笑ったのが、わかった。

見えないはずの臨也の気持ちが、確実に門田に好意を寄せたのが分かった、なぜかは分からないけど。

思い出したくもないことを、最悪だ、気分が悪い。

その時に似た、寒気と吐き気が同時に襲ってきた。



(あいつは、今日、休みっつってた、か)

携帯電話を手に取る。あくまでもただの嫌な予感でしかないそれは、




『ドタチン、昨日はありがとう』

『あのさ、俺、ドタチンのことね』



天使みたいな顔で笑って、俺なんか見向きもしないで、あんな、あんなの、あいつが俺のになってから、思い出すこと、なかった、のに

(あいつはもう、おれのだから、だいじょうぶ)




根拠のないなにかが、じわりじわりと足元から溶けていく。




―お掛けになった電話番号は、現在電波の届かない場所にいるか、電源を





(なんで、今日に限って)





end

急展開すぎてついていけない

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