きみがそういうなら。

こいつって本当にバカなんだな

と、心のそこから思うことがある。


「……最低」

「………」

「俺行きたいって言ったよね、っていうか何回も行こうって誘ったよね」

「しかたねーだろ、そういう流れになっちまったんだから」

「………」

「つうかどう考えてもおかしいだろ、男二人で」

「…へぇ」


ふ、と自然と口角が上がる。そうか、こんなバカでもそれくらいの常識はあったんだな

そうかそうか、はは

よく悪びれもせず言えたもんだね、尊敬するよ

バカだと思ってる相手に当然の常識を突き付けられてカッと頭に血が上るのを感じた

「確かに、おかしいね」

「………」

「最初から言っててくれれば、俺も君なんか誘わなかったのに」

にっこり笑うとシズちゃんが眉を寄せる。その顔したいのは俺だってなんでわからないかな

「今日はそれが言いたくて来ただけだから帰るよ。じゃあね」

レシートを持って立ち上がると後ろから舌打ちが聞こえた。呼び止めもしないのか、なんてちょっと辛くなってる自分は一回死んだ方がいいな。

振り向いて普通にパフェ食べてんの見たら耐えられないと思って足早に店を出て携帯を開く。新着メール一件、内容は想像通りさっきの続きだった。

『平和島静雄に女が出来たみたいです。』

それの根拠を示す文面と写真。最初はこの二人の写真なんてよく撮れたものだと思ったが何通も別の場所から送られてる写真つきのメールでコイツらがいかに浮かれてるかがわかった。

少し前までならあんな化け物がそんな相手が人間の真似事を始めたと面白がれただろう。

しかし、残念ながら今はただただ不愉快でしかない

俺、折原臨也と彼、平和島静雄は現在一応恋人として付き合っている。まぁそれを知ってるのなんか俺達自身と新羅とドタチンくらいっていう曖昧なものなんだけど。

池袋に行けば以前と変わらずに殺されそうになるし、甘い台詞を吐かれるわけでもない。ただ気まぐれにシズちゃんがうちに来るようになって、俺が鍵を開けるようになった。それだけだ。

そう、それだけ

いまみたいに用があってファミレスやファーストフード店に入ることはあっても、二人で可愛いケーキ屋さんに行ったり、公園でベンチに座ってうたた寝なんてしたことない。ついでに言うと頭なんて撫でたことも撫でられたこともない

「……バカみたい」

別にシズちゃんが浮気したなんて思ってない。嫌になったとしてもシズちゃんはそういうとこ堅いから別れるの一言くらい言うはずだ。

むかつくのはシズちゃんよりも

付き合う、ってなってから取引相手とでも二人きりで会わないようにとか、人を部屋に入れないようにとか、あんまり波江にベタベタしないようにとか

そんなことを考えて窮屈な思いをしてた自分に対してだ。シズちゃんの言う通り、俺達に普通の可愛らしい恋人の関係を想定していた自分がおかしかったんだ馬鹿馬鹿しい。

携帯を意味もなくスライドさせているとピピピと音を立てて携帯が震えた。


(……四木さん…)


「はい、折原です。」

「……ええ、もちろん。時間にはそちらに向かいますよ」

「え?」

「いえ喜んで。……ありがとうございます」


また断られるかと、と電話の向こうで四木さんが笑う。首を傾げてから最近迎えや食事を断ってたことに思い当たった。

でも、そんなことを四木さんが気にかけてくれてるとは思いもよらなくてなんだか顔が熱くなった。

なんで俺断ったりしてたんだろ、シズちゃんがそういうつもりなら、遠慮なんて無意味だったな

(本当にバカだったな)

シズちゃんはきっと一緒に入ってくれない可愛らしいカフェに一人で入って

(四木さんは付き合ってくれるんだから)

(男二人でおかしいとか、言わないんだから)

付き合うに当たって自分の価値観だけで恋人をはかるのはよくないと大好きな人間を観ていて感じていたからしばらくは新羅やドタチンの意見を聞いてきたわけだけども

これからは彼の行動から見出だした浮気の定義を存分に活用させてもらおうと思う。

(相手が君しかいないんじゃなくて、意図的に君だけにしてたんだよ)

そんなこともわからないやつに義理立てしてたまるか

冷たい珈琲に口付けると、予想通り四木さんが珈琲を買って入ってきてくれた

ねぇ、シズちゃんは忘れちゃったかな




(俺の浮気の定義は君よりだいぶ希薄だよ)





なんつー面倒な奴なんだ

と、思うときがある


「先輩、どうしましたか?」

「ん?」

「表情が不機嫌を訴えています、用事が出来たと別れたときは上機嫌だったと認識しています。不愉快な用事だったのですか」

「…大したことじゃねぇがな」

心配してくれるような表情で聞いてくるヴァローナを見てると余計に。

確かにアイツが行きたがってたとこに他の奴と行ったことは悪いと思うが、それがあそこまでキレることかよ

(君なんか誘わなかった、って)

どうせ他に相手いねーから誘っただけだろうが

先輩、と声をかけてくるヴァローナの頭を撫でて心中で舌打ちをする

俺が行くっつえばいつでも家に居るし、俺の休みにはどこかしらに誘ってきた

あいつの提案はどこも男が二人で行くには抵抗のあるところだったから実際に出掛けたことはそうねぇけど。
とにかく恋人という関係になってからずっと、あいつは当然のように俺の傍にいた。

なのに、気づかなかった

連絡がいつでもつくようになった理由も

臨也の口から他の人間の話題を聞かないようになった理由も

俺の休みに臨也が家にいる理由も

(俺実はこういうの初めてなんだよね)



そういって笑った臨也の真意すらも


あのときはときめくんじゃなくて、背筋を凍らせるべきだったんだと気づいていれば、こんなことにはならなかったかもしれない


(……プリンでも持ってくか…)

ふ、と息を吐いて頭をかく



付き合い始めてから、臨也と連絡がつかなかったのはこの日が初めてだった



end


そしてシズちゃんふるぼっこ計画が始動します。

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