短編 | ナノ


外に出ると生温かい風と涼しい風の両方が私の頬をなでました。すうっと空気を吸うと、雨の匂いがする気がしました。

「千鶴ちゃん。準備できたよ」
「あ、沖田さん!任せっきりにしてすみません」
「いいんだよ、別に」

外はだんだんとジメジメしてきて、いよいよ雨が降りそうな空になってきました。と、言っても夜なのですから空は真っ暗です。何故かそんな気がするのです。
私達はこれからどこかへ行きます。
私は沖田さんが好きで好きでしょうがないのに、父も母も反対するのです。あの2人の頭にはいつも勉強のことしかないのです。きっと父も母も医者だから私に継がせたいのでしょうけれど、私はそんなことは頭にありません。私の頭の中には沖田さんのことしかないのです。
つまり、反抗の意味を込めてどこかへ行くのです。
沖田さんいわく、家族に願えばどこか家を探してくれるそうです。ただ、あまり頼りたくないなぁ、と言っていました。私もそうです、と言いますと、やっぱり僕たち気が合うね、なんて嬉しそうに言っていました。沖田さんが嬉しそうにしていると私も嬉しいので、自然と顔が綻んでいきました。

「どこへ行く?」
「そういえばまだ決めていませんでしたね。私は…とりあえず遠くに行きたいですね」
「そ?だったら電車でも乗ろっか」
「そうですね」

どこへ行くかもわからないけれど、ここにいたくないと強く思いました。できるだけ遠く、遠くへと。

「千鶴ちゃん、バス来たよ」
「はい。今行きます」

高校生がどこかへ行くなんて、たかがしれているかもしれません。でも私の本気をわかってもらいたいのです。
だから遠く、遠く、知り合いの誰もいないところへと。