寄り添い


自分で引き受けたとはいえ、今回の仕事は精神的に少しキツかった。
そう思い、中庭の池の方を眺めながら馬岱は縁側で呆然とする。
人間のいざこざなど知らぬ鯉は気持ちよさそうに池で泳ぐ。
馬岱はその姿を羨望の眼差しで見つめる。

「……たい!馬岱!」

自分を呼ぶ声に漸く気づく。声の主は分かっていた。
声が聞こえた方を振り向くと柔らかく暖かな感触のものが唇に当たる。
もしかして振り返ったときに彼女の頬に自分の唇が当たったのでは
と思い目を見開くと、くすくすと控えめな笑い声が隣から聞こえてくる。
それから彼女は馬岱の隣に座るとぷくっと頬を膨らまして馬岱の方を向く。

「何回も呼んだ」

「もうー!俺、凄い勘違いしちゃったよ奈々詩殿」

「もしかして、私の頬に口が当たったら…とか?」

奈々詩は微笑むと馬岱の唇に当てたものを見せびらしながら
再び馬岱の唇に柔らかく暖かいものを軽く押し当てる。
彼女が見せびらかした柔らかく暖かいものの正体は肉まんだった。

「これ馬岱の分。お勤めご苦労様」

「奈々詩殿が買ってきてくれたの?有り難うね」

コクリと頷く奈々詩の手から肉まんを受け取る。
あまり人に関心を示さない彼女が自分の為に肉まんを買ってきてくれたことに嬉しく思う。

「私にはこんな事しか出来ないから」

そう言い寂しそうに馬岱から視線を逸らし肉まんを見つめる。
そんな彼女を抱きしめ、彼女の肩に顔をそっと乗せる。

「奈々詩殿は知らなくていいんだよ。奈々詩殿は伸び伸びとしていて。
俺なら大丈夫。こうして君から元気をもらってるから平気だよ」

「本当に?本当に私は馬岱を元気づけてあげられている?」

奈々詩は体を離して馬岱に向き直る。
自分を心配する彼女の不安げな顔を見つめながら
今度は肩を抱き寄せて彼女の頭に自分の頭を寄せる。

「本当はね。君が傍に居るだけで俺は嬉しいんだよ。でも今日はもっと嬉しかった。本当に有り難う、奈々詩殿」

肉まんを持っている手と反対の手で奈々詩の頭を愛おしそうに撫でる。
その好意に目を細めて奈々詩は馬岱に寄りかかった。



...終...


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