ほんの一瞬で


司馬懿が出仕してから幾度か戦があり、その働きが認められてそれなりの地位に登り詰めた。
だが良く思わない者も居たので廊下を歩くと時々陰口が聞こえる。
プライドの高い司馬懿にとって耳障りだったが、特に気にすることはなかった。
しかし、司馬懿の部下の奈々詩はそうではなかった。
自分の上司が悪く言われているのは気に入らなかった。

「聞き捨てならないです!我が主のお陰で先の戦は被害が少なかったのでは?」

ひそひそと話していた兵士に向かって奈々詩は声を上げる。
そうすると兵士はこちらを睨んだが、そそくさとその場を逃げるように去った。
司馬懿が来たからだ。

「いちいち気に止めるな。愚の骨頂だぞ」

「う、……すみません。ですがやはり私は許せないです。
我が主は頭の切れがよく、素晴らしい御方なのに!」

キラキラとした尊敬の眼差しで見つめてくる奈々詩に司馬懿はたじろぐ。
尊敬されるのに嫌気はない。
が、彼女は策士とは無縁な無垢な瞳で見上げてくるので耐えられない。
策士とは時に非道でなければならない。
それが彼女には全く感じられないのだ。

「お前も策士となりたくばそれなりの振る舞いをしろ」

司馬懿がそう言うと奈々詩は少ししょんぼりする。
叱っているつもりは無いが司馬懿の言い方は周りからすると叱っているように聞こえてしまう。

「私は…私の好きな方の名誉を守るためなら凡愚でも構いませんよ」

ぼそっと奈々詩は小さく呟くが、司馬懿には聞こえていたようで彼は動揺隠せないでいた。
彼のその様子を目にすると奈々詩は顔を赤くした。

「し、しかし、私が凡愚と言われたら上司に泥を塗ることになりますよね!
それだけはしたくないのでそれなりの学は学びます!
我が主…その、し、司馬懿様のお役に立ちたいですから……」

それから失礼しますと言って奈々詩は顔を赤くしたまま、いそいそとその場を後にした。
残された司馬懿は片手で顔を覆う。

「期待…してしまうではないか……馬鹿めが」



...終...


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