偶然って、残酷。
ただ、掃除当番で、ただ、ジャンケンに負けて、ただ、ゴミ捨てに行っただけなのに。
それだけなのに…
何で、こんなモノを見なくちゃいけない?
肩越しに見えた、女の子の勝ち誇った顔。
広い背中を這っている、女の子の手。
クスクスと、耳に障る女の子の笑い声。
吐き気がする。
ゴミを思いきりぶつけてやりたい。
その衝動をどうにか抑え、私は二人に背を向けて走り出した。
全速力で屋上に向かう。
乱暴に重い扉を開ければ、私の心とは正反対の澄んだ空が、出迎えてくれた。
都合良く、屋上には誰も居ない。
堰をきったように、涙が溢れ出す。
私は大声で泣いた。床に座り込み、幼い子供みたいに、わんわん泣いた。
何で、こんなに苦しいのか。悔しいのか。辛いのか。悲しいのか。
どんなに考えたって、答えは一つしかない。
総悟が私の傍から、居なくなってしまうのが、嫌なんだ。
友達として、一緒にいられるだけでいいと、思ってたけど…もう、無理。
私の手の届かない所へ、行ってしまった事を認めたくない。
嫌だ…嫌だ、嫌だ、嫌だ!!
黒くてドロドロしたモノが、心を浸蝕していく。
「怪獣みてぇな泣き声でさァ」
呆れた総悟の声に、肩が大きく跳ねた。
振り返る事が出来ない。
総悟の足音が、どんどん近寄って来る。
どんなに涙を拭っても、涙は止まらない。
総悟の足音が、目の前で止まった。
「何泣いてんでィ?」
私の前にしゃがみ込む総悟に、顔を見られないよう、手で覆い隠した。
「黙ってたら、分かんねぇだろうが」
「…ごめん」
「何が?」
「私…総悟の幸せ…祝えない」
体が強張って、震えているのが分かる。
「どうしても…無理なの…総悟があの子と、一緒にいるだけで…あの子が総悟に、触っただけで…頭が、可笑しく…なりそう」
嗚咽を抑えながら出す言葉は、とても幼稚に聞こえて恥ずかしくなる。
「嫌なの…そ、総悟が…いなくなっちゃうのが…嫌…総悟を…とられるのが…嫌なの」
まるで駄々をこねる子供だ。
手に入らないモノを、欲しい欲しいとせがむだけ。
なんて、馬鹿で、哀れで、醜いんだろ。
「そらァ…焼きもち、かィ?」
私は小さく頷く。
今更、嘘をついても意味がない。
「ごめん…焼きもちなんて…できる立場じゃ…ないのに…只の友達なのに…ごめん…ごめん」
焼きもちをやく時点で、もう友達じゃない。でも、友達でいさせてほしい。
せめて、友達として、総悟の傍に…
ひたすら謝り続ける私に、総悟のため息が重くのしかかる。
「じゃあ、友達やめてくれィ」
一瞬にして、世界が真っ暗になった。
頭の中がガンガン鳴って、息が上手く吸えない。
身体が重い。
どんどん、闇に引き込まれていく。
もう、私は総悟の傍にいられないんだ…
突然、総悟は私の両手首を引っ張り、私の顔から手を引き剥がした。
驚いて総悟を見れば、見慣れない真剣な顔に、心臓が痛いぐらい鳴った。
「焼きもちやける立場に、なってくだなせェ」
総悟の言葉に、思考が停止する。
「あの女とは、何にもねぇし、名前も知らねぇんだ。あの女が、いきなり抱き着いて来ただけでィ」
勘違いすんなと、総悟は私の頭を軽く叩く。
「俺ァ、お前に近づく男にずっと前から、焼きもちやいてんでさァ」
総悟の言っている事が、分かるけど、分からない。
馬鹿みたいに口を開けて、ただ総悟を見つめた。
私は夢でも、見てるんだろうか?
「ひでェ顔でィ」
総悟は制服の袖で、乱暴に私の顔を拭う。
ああ…現実だ。
あんなに大きかった絶望や悲しみを、総悟は簡単に消してくれた。
優しく総悟は、私の頬を包んだ。
「ほらァ…笑ってくだせェ」
ニッコリと、珍しく綺麗に笑った総悟に顔が、みるみるうちに、歪んでいく。
いつまでも
涙がとまらない笑えって言ってのに、何泣いてんだァ
嬉しい時も、涙は出るの!
(幸せもとまらない)
マヤ様(
ぜろ)
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