09*ふらふらしないで


他の人見ないで!
ずっとあたしのことだけ見ていて!





「トシ、トシ、トシ!聞いてるの?」

「あーうん聞いてなかった」


気のない返事を返せば、なんで、と組んでいた腕を乱暴に揺すられた。
もう、と拗ねる彼女はそういう仕草さえも可愛らしく見せようと必死だ。
俺は客観的に彼女を見る。いつだってそうだ。
そういう風に心がけている。なぜなら、


「あのね、あそこのカフェのケーキがおいしいって話」

「へぇ」

「だから行きたいって言ったの、今。」

「行けば?」

「トシと、行きたいの、いま!」

「あぁ、そう。いいけど。」


俺の一言に、彼女はほっとしたようだった。
俺は簡単に彼女の提案を跳ね除けたり、気まぐれで個人行動に走ったりする。
そうされるのが、彼女は大嫌いだ。
何度も真顔で言われたことがある。そういうことされると不安だ、と。
彼女はいつだって、囚われている。
何考えてるのか解んない、どうしてそんなこと言うの
あたしのことちゃんと見てる?
そう、つまりは俺に囚われている。無理もない。
仮にも彼氏という立場の相手がこれじゃあなァ。
だが囚われると同時に彼女は忘れている。
俺は真選組の頭脳、土方十四郎。

頭はきれる。それに策士だ。
恋愛事にも計算を持ち込むタチの悪い奴なんだ。
だから、お前には悪いけど。
俺、負け戦はしないから。


「あ、あそこ、窓際の席がいいね」

「どこでもいい」


俺がそう言うと彼女の瞳が揺れる。
ちらりとソレを確認して、カフェ店内の席に着いた。
煙草に火をつける。
彼女を観察。気を取り直すようにはしゃいでみせている。
メニューを俺に広げてどれにする?と首を傾げ、俺の機嫌を取り戻そうと焦ってる。
別に機嫌が悪くてこうしてるんじゃない
計算して一番効果的な行動を取っているだけ。


「あたし、キャラメルケーキにしようかな!」

「俺コーヒー」

「わかった、店員さん呼ぶね、」


それには返事をせず、頬杖を付いて外を眺める。
デート中詰まらなそうにコレをされるのも彼女は大嫌いだ。
やめて、と言えないのか、そんな俺を見て見ぬふりでやり過ごした彼女は店員に注文する。
それが終わると、今度は俺の視線の先を探し始める。
お見通しな俺は、道行く町娘を目で追う。
暇つぶしに頭の中で点数をつけていく。
あれは30点。あれは10点だな。
お、あれは中々、45点はくれてやろうか。
ちなみに50点超えをする女はそうそういない。


「あ!ねぇトシ!」


やっと俺が何を見ていたのか気が付いたのか、はたまたそんな事は百も承知で声をかけるタイミングを伺っていたのか。
まぁ後者だろうが、慌てたように彼女が大声を上げる。
俺は一瞥して、その先を促した。


「あのね、あたし髪の毛切ったんだよ!」

「・・・ふぅん」


あぁ、知ってる。
一目で気づいたさ、前髪と毛先だろ
俺が此間テレビに映ってた、好みでもないセミロングのモデル絶賛したから?
まぁ、あのモデルよりは似合ってるのは断言できる。
点数的には文句なしの100点満点。
でも言ってやらない。言うわけない。
おれは冷めた瞳を彼女に向けた。


「・・・・。」

「・・・・で?」

「わ、わかんないよね、ウン、ちょっとしか切ってないし」


しどろもどろに狼狽し、自己完結。
無意識に頭を撫でようと動く腕を顔色ひとつ変えずに抑える。


「に、似合う?」

「あぁ」


興味なさ気にまた外をみる。
先程45点の女性は待ち人でもいるのだろうか。未だ道を行ったり来たりしている。
・・・45点はやりすぎだったかもしれない。
30点に減点だ。
俺の正面に座る彼女を見た後では、どんな女も可愛くない。
たとえアイドルを見つけてもそれは変わらないだろう、不思議だ。
そう思い、不意に彼女を見た。
俺がこちらを向けばすぐさま、不安そうな表情から少々無理な笑顔を作る。
子どもみたいな、でも儚い、そんな顔で彼女は笑う。
やっぱり100点だ。
気を取りなおすように彼女は明るい声をだした。


「ねぇ、なに見てるの?」

「あの女。」

「・・・・・ぇ…」

「待ち人だろうな、さっきから居る」

「・・・ぁ、うん、そうだね・・・」

「彼氏いんのかな」

「・・・」


おれが飄々と言ってのければ、俯いてしまった。
おぉ、それは考えてるな。
今、俺で彼女の脳はいっぱいいっぱいだ。
思いつめたように、彼女は外の女を見た。
ここから今すぐ居なくなって。口には出さないが、そう祈ってるに違いなかった。
俺は、お前をいつだって客観的に見ている。
なぜなら、そうしていないと先を越されるのはわかってるから。
囚われたら負けだ。それなら逆に捕えるしかないだろう。 


「ねぇトシ、」


思いがけなく、テーブルに投げ出していた手を握られた。
珍しく俺は目を丸くする。
放さないで、と彼女の視線が訴える。
潤んだ瞳の上目使い。
きゅ、と結ばれた桜色の唇。
悲しく下げられた眉と、小首をかしげるその角度。
今にも泣き出しそうな縋る視線。


「・・・・。」


その表情にぐっときた。こりゃあ120点だ。
お前はなんでそういう・・・
なんつか、男のツボを心得てるんだ。


「トシ。」


俺が計算しつくして積みあげたものを簡単にひっくり返そうとしやがる。
逆転ねらいか?そうはいかない。


「・・・なに?」


気にしないフリしても、
いつも自分よりきみのこと気にしてる。
わざとだよ。
そっけない態度も、平気でお前の不安要素を口にするのも。



「・・・あたしのこと好き?」

「・・・おまえは?」


主導権は今、俺が握っている。
手放すなんてごめんだ。


「あのね、大好きなの、大好きだから、お願い」


ふらふらしないで


「…・・・。」

「・・・トシ…ねぇ、」


消え入りそうなその声に、俺はついに口角を上げてしまった。
あぁ、解ってる。女ってなァ虐めも度が過ぎると嫌われちまうんだ。


「あぁ。」


俺は彼女が大好きな、優しい笑みで頷いた。
頭をぽんぽん、と軽く撫でてやれば飛び切りの笑顔を返された。たまらない。
されるがままの彼女に満足。俺は誇らしげに笑みを携えながら、
絶対に口には出さないけど、脳の中で彼女に言った。


お前こそな。
ずっと、
俺だけ
見てろよ。

(恋してるよ、いつも)



END







→彼女に妬かせて、実は自分の方が心底好いてる土方さん。
自分が妬く隙も欲しくない策略なんです。
こんな彼氏いたらやだ




春様(3step!

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