※学パロ
ギャグ風味です。


「待たせたなー」

のんびりとした声の方に視線を向けた瞬間。
笑顔で双子の片割れを迎えようとしたハオは、中途半端な表情を浮かべたまま硬直した。

2月14日、バレンタインデー。

朝から雪が降る寒いこの日に、ハオの愛してやまない片割れはこう言った。

『ハオにちゃんとチョコ用意したぞ』

ふにゃりとした笑顔で告げる葉を次の瞬間力いっぱい抱きしめて、ハオはすっかり浮足立っていた。兄弟という関係が長かったせいか、如何せん、葉はそういったイベント事に疎い。元々の性格がおっとりしているのも相俟って、ハオは悶々とした気分を味わうことが多かった。それは勿論、この片割れとの甘い時間を期待してしまうからに他ならない。

そんな葉が、今日はいったいどうしたことだろう。
素晴らしい進歩だ。

そう感激しながら葉を抱くハオの腕の中で、件の片割れがもぞもぞと動く。
そして、ふにゃりと照れ臭そうに微笑んだ。

『準備してくるから、ちょっと待っててくれんか』

台所へと視線を向けながら告げた葉に、ハオは一も二もなく頷いた。名残惜しみながらも腕の中の片割れを送りだし、炬燵に潜り込んでその帰還を待ち侘びる。
待っている間すら楽しみになのだから、恋とは恐ろしいものだ。
そして。

「待たせたなー」

のんびりとした声の方に視線を向けた瞬間。
笑顔で双子の片割れを迎えようとしたハオは、中途半端な表情を浮かべたまま硬直した。

愛しい片割れの手には、何故か土鍋が抱えられていたからである。

「・・・・・・」

その光景を視界に捉えた瞬間、ハオは高速で頭を回転させた。
葉は確かに、「チョコを用意した」と言ったはずだ。事実、台所からは甘いチョコレートの匂いがしている。しかし、しかしだ。
それならば何故、葉は土鍋など抱えているのか。
葉の性格ならば「寒いからチョコじゃなくておでんにしたんよ」というのも、有り得なくはない。雪が降ったおかげで一段と冷え込み、暖かいものに切り替えたという可能性は十分に有り得る。そこで色気もそっけもないおでんをチョイスするのも葉なら大有りだ。しかし、そうすると今漂っている甘い匂いに説明がつかない。

もしや、夕飯の後にチョコレートを渡すというパターンか。

そう一瞬考えたものの、ハオは直ぐさまその考えを打ち消した。現在の時刻は15時半。軽く何か口に入れるならともかく、夕食にはまだ大分早い。今から食事をすれば、夕飯が胃袋に入らなくなる。
考えれば考える程謎を呼ぶ土鍋に、ハオはゴクリと唾液を飲み込んだ。
蓋に隠されたその中に、一体何が入っているというのだろう。

「いやー思ったより準備に時間かかっちまった。すまんなー」

そう謝罪しながら、葉は土鍋を一旦脇に置き、ごとごとと電気コンロの準備を始める。
・・・・・・いよいよもって、雲行きが怪しくなってきた。
何故にコンロ。何故に土鍋。
バレンタインと全く共通項の見当たらないそれらに、ハオの思考は混乱するばかりだ。
そんな片割れの戸惑いに気づいた様子もなく、葉はにこにこと笑いながら、ハオに次なる爆弾を投下する。

「あ、あとこれな」

―――そう言ってハオに差し出されたのは、竹串の束だった。

「・・・・・・・・・・・・・」

何故。
何故に、竹串。何故に、バレンタインに竹串。
にこにこと笑う片割れを邪険にすることもできず、ハオは「あ、ありが・・・とう・・・」と尻窄みになりながらも礼を言う。普段なら完璧なポーカーフェイスも、口角が引き攣り気味だ。いよいよもって意味がわからない。

「あ、ハオ。土鍋の蓋取ってくれ」
「えっ」
「? どうかしたか?」
「いや・・・」

葉に言われて、恐る恐る手を伸ばす。ほこほこと湯気を上げる土鍋は、手を近づけると温かい。
この中に、一体何が入っているのか。
全く予想のつかない鍋の中身に、ハオの喉がもう一度ごくりと鳴る。ふきん越しに持ち手を握り、意を決して重い鍋蓋を持ち上げた。
きつく閉じていた瞳をそろそろと開いた瞬間。ハオは、きょとんと瞳を瞬かせた。
鍋の中身は、湯気を上げる白湯だったのである。

「ハオー?蓋こっちにくれ。あと、鍋コンロに乗っけるんよ」
「え、あ、うん・・・」

葉に外した蓋を渡し、ハオハオはいそいそと土鍋をコンロに乗せる。
しかし。余りの疑問から、つい葉にこう尋ねた。

「葉・・・」
「うん?」
「これって・・・もしかしてお湯?」
「おお、そうだぞ」

あっけらかんと頷いた葉に、ハオは内心頭を抱えた。鍋でもおでんでもなく、お湯。何故にお湯。

「あと中身持ってくるから、ちょっと待っててなー」

にこにことしながら台所へと姿を消した葉に、ハオはヒクリと頬を引き攣らせる。
この上まだ何かあるのか。中身とは一体なんだ。何を指しているんだ。

「!・・・まさか、水炊き!?」

天啓よろしくハオの脳裏に閃光が煌めく。
しかし、そうすると竹串がまたしても謎だ。おまけに、水炊きはお湯ではなく昆布出汁で作るものだ。その辺りは自分より葉の方が良く知っているだろう。
正直疑問符で頭がぎゅうぎゅう詰めに成りすぎて、いよいよ頭が痛い。
愛しの片割れは、一体何をしようと言うのか。

「ハオー始めるぞー」

そう満面の笑みを浮かべた葉の両手には、金属ボウルと大皿がそれぞれ握られていた。炬燵に座ったハオの位置から、立っている葉が持つボウルや皿の中身は見えない。
一体、何が入っているというのか。

「ほい、これな」

葉が笑顔で差し出してきた皿を恐々受け取り、ハオはそろそろと視線を向ける。

そこには、色とりどりの果物やマシュマロ、小さく切られたクロワッサンやクッキー等が盛られていた。

「・・・・・・え?」

瞳を瞬かせて、皿の上のものをとっくりと見つめた後。ハオは葉が持つボウルに視線を向けた。
そこからは、甘い匂いを放つつやつやとしたセピア色の液体が顔を覗かせている。
葉はチョコレートの入ったボウルを湯の張られた土鍋に入れ、ハオへと笑顔で振り向いた。

「チョコ食べるぞ!」

その言葉を聞いた瞬間。
ハオの中で、すべてのものが一本に繋がった。



この日甘やかなるときを


「・・・・・・つまり、チョコレートフォンデュの準備をしてた訳だ」

とろとろと蕩ける甘いチョコレート。
そこに色気のない竹串へと刺した苺を浸しながら、ハオはため息混じりに言葉を紡ぐ。
確かに、自分の家に鍋は豊富にあるものの、チョコレートフォンデュ用の鍋などという洒落たものはない。ならばフォンデュ用のピック等もあるわけがなく、その代用が土鍋に湯煎、そしてボウル入りのチョコレートと竹串という訳だ。わかってしまえばどうということはないが、当初は意味がわからなかった。

「おー、テレビでやってて美味そうだったからよ。ハオもチョコ欲しいっつっとったし、丁度いいとと思って」

どうやってやるか考えたんよ。
そうほわほわと笑う葉は、非常に可愛らしい。葉自身が食べたいのも大いにあったのだろうが、ハオの為にこれを考えたのだと言われれば、愛おしくもある。
混乱も翻弄もご愛敬。葉はいつまで経っても自分を振り回し、夢中にさせるらしい。

「・・・・・・ほんと、葉には敵わないなぁ」

びっくりしたよ。
そうハオが甘い苦笑を漏らせば、チョコレートに潜らせたマシュマロを頬張った葉が「うぇっへっへっ」と満足そうに笑う。

これなら来月のホワイトデーには、何か特別なお返しをしなければ。

そう頭の片隅で考えて、ハオは笑う。
とりあえず前払いとして、チョコを頬張る片割れの頬に小さく口づけた。

===

パニクるハオさまがかけてとても楽しかったです。
葉くんはきっと本当に気づいてない(笑)

2014.02.14

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