※小話まとめその11
学パロハオ葉で掌をテーマにmemoからの格納2本と初出1本。
最後の一本が若干誘い受風味なので、苦手な方はご注意下さい。


ハオが、欲しい。

直接的に頭へと浮かんだ言葉に、葉は淡く頬を染めた。
生徒会室で仕事を熟している片割れのことをぼんやりと考えていたら、不意にそんな言葉が浮かんだのだ。正確には、感情や欲求といった方が正しいかもしれない。ハオの長い髪に鼻先を埋めて、少し骨張った身体を抱きしめたかった。
それは、寂しいとも言い換えられるかもしれない。
葉の少し癖のある髪を撫でる掌。鼓膜を震わせる軽い笑い声。悪戯を持ち掛ける時耳朶に触れる僅かな吐息。拗ねた様に尖らせた唇。葉の中にあるハオの断片が、無数の破片となって一人の形を象っていく。抱きしめてくる身体は温かいのに、何故か葉に触れてくる指先だけはいつもひんやりとしていた。けれど、あの掌に撫でられるのを、葉はこっそりと好いている。
体温の高い自分の身体に触れることを、いつも一瞬だけ戸惑う指先。ハオのその掌が、葉は奇妙な程に好きだった。

「よう」

鼓膜を震わせた声音に、のろりと顔を上げる。

「はお」

応えたのは、反射的なものだった。
それを知ってか知らずか、待ち望んでいた片割れは、葉を見つめて優しく微笑む。

「お待たせ。………帰ろう」

躊躇なく伸ばされた掌に、僅かな違和感を覚える。
いつもなら、自分の手が冷たいのを気にして、葉が触れるまで触れようとしないのに。
そう思いながら、その手を取った。途端、ハオの行動の意味がわかって小さく微笑む。
触れた掌は、やけに温かかった。恐らく、生徒会室のストーブで温めてきたのだろう。

「ぬくいなぁ」

葉がそう告げながら片割れの手をぎゅっと握れば、ハオも嬉しそうに小さく笑った。

===

「ん」

そうそっけなく声を掛けながら、差し出された掌。
片割れのそれに、ハオはゆっくりと視線を合わせた。剣道の練習で硬い豆ができているごつごつとした掌が、余りにも無骨にハオを誘っている。

「……しょうがないなぁ」

人が来たら、離すよ。
そう片割れの掌以上にそっけなく告げながら、ハオは何気ない仕草でその手を取った。そんなハオの反応の意味をわかっているのかいないのか、葉は「うえっへっへっ」といつものように間の抜けた笑い声をあげてみせる。

―――否。

おそらく、この片割れは何もかもすべてわかっているのだろう。
わかったうえで、それでも手を差し出せないハオへと、何でもない事のように手を差し伸べてくるのだ。

「今日の夕飯なんだろなー」

そう夕日を背にしてのほほんと笑う顔と、絡めあった指先が、いやに愛おしくて。
ハオはそっと、誰にも気づかれないように小さく口元を緩めた。

……きっと、この片割れにはすべてバレているのだろうけれど。



右手と右手を重ねたら



「オイラ、はおの手がすきだ」

そう吐息に混ぜる様に囁いて、葉が自分の頬へと添えられたハオの手に淡く擦り寄って来る。
そんな片割れの頬を包む様に撫でてやりながら、ハオはとろとろとした口調で応えた。

「そうなの」
「ん。ふふ、なんか、なんだ、猫にでもなった気分だ」

そう心地好さそうに唇を緩める葉へと、ハオは自然に距離を詰めた。瞳を閉じたままの片割れへと額を擦り寄せれば、吐息だけで甘く笑われる。縁側から緩く差し込んでくる陽射しは、まだ鋭い。それから逃げる様に僅かの間だけ閉じた瞼の裏側は、照りつける光のせいで朱色に染まっていた。その明かりとは違う、柔らかな体温。熱。腕の中のそれに、ハオは小さく吐息をつく。

「ようは、ようだよ」

頬から髪へと滑らせた指先で、片割れの頭を撫でながら小さく囁く。
そう、ようは、葉だ。猫ではなく、僕の、ぼくだけのようだ。
とろとろと解けていく思考の片隅で、想う。ハオの言葉へと応える様に、腕の中の温もりが更に擦り寄ってきた。

「はおの手、すきだぞ」

葉はまた、ぽつりと呟いた。
ハオがぼんやりと見つめた先には、穏やかな笑みを浮かべた片割れがいる。

「あったかくって、優しいんだ。たまに、くすぐったいんだけどな」
「……ふぅん」

そう言う葉がなんとなく愛おしくて、ハオはまた、片割れの頬をそっと撫でる。そうすると葉の身体からまた力が抜けて、二人の気配が密に溶け合っていった。
日は、まだ明るい。

「でも…たまに、すごくやらしい」

そう悪戯っぽく笑う葉の唇をハオが撫でるのと、発された言葉が鼓膜を震わせるのは同時だった。
沈黙。まだ朱色の部屋の中で、葉の声音だけが藍色に染まっている。

「……おまえ、業とやってるだろ」
「んー?」
「……まだ、夕方だよ」
「いいだろ。どうせ、夜なんかすぐだ」

そう言って擦り寄ってくる葉を、ハオは渋々と抱き寄せた。
腕の中の温もりは、相変わらずハオの中を無遠慮に揺さぶっていく。

「……いつの間に、こんなにいやらしくなったんだか」
「そりゃあ、確実にはおのせいだなぁ」

照れ隠しに呆れてみせれば、くすくすと葉が喉を鳴らして笑う。
その頬を指の背で擽る様に撫でると、閉じられていた瞳が緩く開いた。

「……あんまいじわるすると、オイラすねるぞ」

そう唇を尖らせる葉に、ハオは思わず吹き出してしまう。
どうやら、業とだったのがバレていたらしい。ほんの仕返しのつもりだったのだが、葉にとっては案外切実なようだ。
可愛らしい反応にくすくすと笑いながら、ハオは葉の唇を焦らす様に撫でる。

「―――それでも、この手が好きなんだろ」

そう楽しげに囁けば、葉が唇を撫でていた指先にかぷりと噛み付いてくる。
それに尚更声を上げて笑いつつ、ハオはお返しにと、赤くなった片割れの頬へと小さく口づけた。

===

2013.07.05 memoからの格納+加筆修正

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