※学パロハオ葉と猫マタムネ



「またむねー」

こっちなんよ。
そうのんびりと続いた片割れの声音は今、ハオの胸の辺りから聞こえていた。
すり寄せられる頭の感触なんて、分厚いセーター越しに解るわけもない。それなのにどうしてかすぐったくて、ハオは僅かに体を揺すった。そんな片割れに気づいたのか、飴色の瞳がちらりとこちらを見やる。けれど唇はハオに対してなにも発することなく、またのんきな声で「またむねー」と愛猫の名前を口にした。

きっかけは、ほんの些細なことだ。

こたつの向かいに腰かけた片割れ。その爪先が、こつりとハオの足に触れた。それだけだった。
温もった足に、冬の空気の名残を連れた片割れの爪先は酷く冷たい。反射的に足を引いて逃げようとすると、今度は明確な意図をもって冷えた両足に捕まえられた。途端、ぐわんっと大きくぶれた視界に目を見開く。「うわっ!?」とハオの唇から悲鳴が漏れるのと同時に、ゴッという鈍い音と視界を白く瞬かせる衝撃がその後頭部を襲った。痛みにうめく片割れに頓着した様子もなく、葉はこたつのなかで捕まえたハオの足首を引っ張り、ずるずると温もった布団の中に引きずり込んでいく。正確には、机の反対側に腰かけた葉自身の方へとハオを引き寄せているのだ。炬燵の熱に肌の表面を炙られつつ布団のなかを潜らされたハオが、不機嫌丸出しの顔で葉を見やる。眉間に刻まれた皺はいつになく深い。けれど葉はどこ吹く風だ。ぼさぼさになったハオの頭を見ても、「うえっへっへっ」と緩い笑みを浮かべて嬉しそうに抱きついてくる。相変わらず、とことんマイペースな弟だ。

「っと、わぁ!?」

乱れた前髪を乱暴にかきあげるハオを、葉が今度は押し倒してきた。すっかり片割れの胸元へと収まった葉は、すりすりと嬉しそうに額や頬を擦り付けてくる。その様は正直たまらなくかわいい。可愛くて怒れない。そして、多分それもこの片割れは折り込み済みなのだ。この野郎。

「またむねー」

ここで、ようやくはなしは冒頭へと戻る。
とろとろとした声音。ふにゃふにゃの再三の呼び掛けに、ちりりんと鈴の音が襖の向こうから応えた。とっとっと階段を下りてくる軽い気配。高い声で一声鳴いて、どうやったのか器用に襖を開けた愛猫が顔を覗かせた。「お呼びですか」と言わんばかりのマタムネに、ハオの胸元を占拠した片割れは「こっちくるんよーまたむねー」と相変わらずのんたらした声で手招く。葉が喋る度に吐息と喉の震えが肌から伝わってきて、ハオの内側をざわめかせる。落ち着きなくみじろぐと、その度に葉の冷たい爪先が自分のそれにからめられて尚更こそばゆかった。

「んー?にゃーなんよー」

そんなハオをそっちのけで、片割れと愛猫はいちゃいちゃしている。葉の頬に額をすり寄せるマタムネも、それに応えて幸せそうな笑顔の葉も堪らない。けれど、ハオはと言えばすっかり蚊帳の外だ。

「またむねもいっしょなー」

そしてとうとう葉だけでなくマタムネまでハオの胸元辺りに体を丸めてしまった。葉がマタムネを抱き、その二人をまとめてハオが抱くかたちになる。

「…………痛い思いして、僕はわざわざ布団にされてるの?」
「んー?」

不満げなハオの問いに、葉が軽く視線をあげてくる。ちょうど上目使いになる形だ。わかっている。これもわざとだ。この野郎。

「ふふ、お前だけの特等席だぞ」

「なー?」と続いた葉の言葉に、マタムネまで一声鳴いてみせる。物は言い様。まさにその通りだ。

「………ああ、そう」

ぶつけた後頭部は痛いし、同じくらいの体重の葉が上に乗っているのは正直重い。
せっかく暖まった部屋の空気も、マタムネが襖を開けたことで逃げてしまった。玄関から廊下を伝って、冷えた空気が部屋まで滑り込んでくる。
それでも、不思議と満たされていた。原因は認めるには少し癪で、けれど酷く明確でもある。

其ならば好きなだけこの愛しい塊を抱き締めて温もろう。

そう早々に結論付けて、ハオはくすくすと笑い続ける片割れと愛猫を改めて抱え直した。悪戯っぽく笑う二対の瞳は、見なかったことにする。



子猫とブランケットの相性について



ブランケット役も、なんだかどうして幸せなのである。

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2019.02.05

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