音を奏でる人形
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私を創ったあなたは私にこう言った


君は音を奏でるために生まれた


言葉の意味を理解することは難しくなかった

 とても単純な言葉だったから


私の音を聴いたあなたは私にこう言った


君の音はとても綺麗だ


その言葉が嬉しくて

 私はあなたの言葉を聞くためだけに音を奏で続けた


私の音をみんなに聴かせたあなたはこう言った


僕の自慢の人形だ


その言葉の意味は分からなかったけど

 誇らしくそう言ったあなたを見て褒められていると錯覚した


私の音を長く聴き続けたあなたは私にこう言った


…少し、音を変えてみようか


あなたの瞳を見て

 少し あなたが怖くなった


私の音を変えたあなたは私にこう言った


あーぁ、失敗だね


冷たい視線を私に向けるあなたに

 今までに感じたことのなかった恐怖を感じた


私の音が気に入らなかったあなたは私にこう言った


もう、これ以上歌わないでくれるか


その言葉は私を絶望させる一番の材料だった

 存在理由を失くした私は流れる筈のない涙を流した


私を必要としなくなったあなたは違うものを創り始めた


今度の人形は、上手くいきそうだね


私の眼の前で創られていく私の「友達」は

 あなたを喜ばせる一番の材料だった


私の「友達」を完成させたあなたは私の「友達」にこう言った


君は音を奏でるために生まれた


私が初めて聞いた言葉と同じだった

 私の「友達」の表情は今の私とは正反対だった


私の「友達」の音を聴いたあなたはこう言った


あぁ、綺麗だね。前の人形よりも


私は流し尽くした筈の涙を流した

 嬉しそうに私の「友達」を撫でるあなたを見ていたくなかった


私の「友達」は私に視線を向けて声には出さずにこう言った



あんたはもう、用済みだね


その言葉を理解した瞬間に 私の存在理由は消滅した




       -私に音を下さい-