水面に光
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彼女は透き通った声で俺の名を呼んだ。
そして、静岡に行こう≠ニ言った。

「…どうした、急に?」

「静岡の駿河湾にね、ミズウオ≠チて深海魚がいるの」

理由を問えば彼女はふわりと笑んでそう言った。

「…うん、それで?」

「そのミズウオは目の前にあるものは餌だと思って何でも食べちゃうんだって」

「へぇ…」

突然、不思議な話を始めた彼女を凝視しつつ話を聞いていると、彼女は続けて
「それが人間が捨てたゴミでもたべちゃうんだって」
と言った。

「その食べたゴミが原因でミズウオは死んじゃって海岸に打ち上げられてるの」

話が進んでいくのに比例して彼女の表情が曇り始めた。

「…可哀想だな」

「うん、だから…静岡の駿河湾でゴミ拾いしよう?」

遂に彼女の表情は悲しげなものとなった。
俺には、何故彼女がそこまで出来るのかが分からなかった。

「…ミズウオは、そんなに綺麗な深海魚だったのか?」

「そういうわけじゃ、ないんだけどね…、そのままにしておいちゃいけない気がしたの」

そういって彼女はまた、ふわりと笑った。
異常なまでの優しさを持った彼女は、海が好きだった。
そんな彼女は海の事になると、よくボランティア精神を発揮した。


もう一度言うが、俺には彼女がそこまで出来る理由が分からなかった。
だから一度だけ、彼女に直接訊いたことがあった。
その時、彼女はただ綺麗だから≠ニ言った。
海が綺麗だからそれを汚したくない、と。

曖昧に納得したような返事をした俺に、彼女は
次郎はそうおもわないの?と問いかけた。
その問いかけにも曖昧に肯定の返事をした。
















俺は今、彼女がゴミ拾いをしようと言っていた駿河湾に来ている。
正確には、彼女とゴミ拾いをした駿河湾の海岸に、だ。

彼女とゴミを拾った場所はところどころにゴミが散らばっていた。
その中のゴミの一つ、一部に穴があいている缶を蹴りあげて
宙を舞うその缶を手で掴む。
そして真っ青に染まる海に視線を向けた。

一つ、過去の事を思い出した。
これもまた彼女の言葉。

私は死んでも天国には行きたくない。私は、死んだら海に還りたいの



彼女と、この海岸でゴミを拾ったのは10年前の14歳の時。
俺が鬼道の背を追っていた頃。

俺が再びこの地を訪れた今は、その頃から10年後。

そして、





君が海に還ってから、10年後だった。





水面に光

(俺はただ涙を流した)
(10年前もこの場所で)




(海を語る君が、海よりも綺麗だったから)












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…突発的って怖い。
ミズウオの話は教/科/書/に/の/せ/た/い/!から。
……サイト初の10年後キャラの話が死ネタでごめんなさい、

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