迷子の路地裏 ---------
少し遠くから聞こえる、荒々しい男たちの声。 思ったよりしつこく追って来やがった。 予定よりもかなり走らせてしまったが初風は大丈夫だろうか。 ちらりと隣を見るとそこには、予想通り肩で息をしている初風の姿。
「悪ぃ、大丈夫か?」
「お、おう…なんとか生きてる、」
初風の返答を聞いて少し安心したものの、その言葉よりも辛そうに見えた。 きっと、長時間走ったのは久しぶりなんだろう。
「此処までくれば大丈夫だろ、…まぁ、次来たら全滅させるけど」
「ちょっ、咲山何危ない事言ってんの、」
「だってまた逃げるのはお前の体力が保たねぇだろ」
「……ごもっとも、です」
どうやら図星だったらしく、暫くの間を開けて返事が聞こえてきた。 やっぱ面白ぇな、コイツ。
多少乱れた呼吸を整える間に初風を見ていると 面白いくらいにコロコロと表情が変わっていく。 所謂、百面相というやつだ。初めてリアルにみたな。 そんなことを考えている間にも初風の表情は変わり続ける。 何かを考え込んでいるような表情から、急に頬が赤くなり始め、 次の瞬間には青ざめて、終いには溜息まで吐いている。 ……一体、何を考えていればこんな見事な百面相になるのだろうか。 俺には到底真似できないだろう。…別に真似する気もないが。
「さ、咲山…」
「あ?」
不意に初風が俺を呼んだ。 逸らしていた視線を初風に戻す。
「此処、…どこ?」
「…………さぁ、」
「え、道分からないまま逃げてたの?」
先程、百面相していた時のように青くなり始めた初風。 …コロコロ表情変わりすぎだろ。飽きなくていいけど。
「逃げてる時に道なんか気にしねぇだろ」
さらりと言ってのければ初風は溜息を吐いた。 その溜息に続けてどう帰るの、と問いかけてきた。
「…とりあえず、歩けばつくだろ」
俺の言葉に迷子かよ、と不満を漏らす初風の手を半ば強引に引いて歩き始めた俺。 初風の顔が赤く染まっていくのがちらりと視界の端に映った。
ガラにもなく可愛いな、と思いつつ薄暗い路地裏から大通りに出た。 ……あれ、今俺どうした、?
--------- 気付き始めた咲山。
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