逃走劇
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心臓が破裂しかけた昼休みを無事に(?)過ごし、今は我が家へと帰宅している最中だった。


出来心で咲山の寝顔を写メってしまった私はその後の授業
1時間をそのまま咲山と過ごしてしまった。
…昨日といい今日といい、連日授業をサボったのは初めてだ。
あれから結構な時間が経っているが、私の熱は冷めてはいなかった。


…何あの人、すげぇかっこよかったんスけど。
身体細い癖に意外と力強いし、やたら妖笑するし
ものすご至近距離だったし、前髪で隠れてる片目見えそうになるし。
……あれ、かっこいいの基準が間違ってる気がしてきた。
まぁとりあえず、ドキドキしまくって死ぬかと思ったってことだよ、うん。

まず2人きりって時点で心臓に負担がかかってるんだよ。
呼び出しメール来ただけで雷落ちるのに。
次に、咲山が寝てたのがダメなんだ。起こすに起こせないから。
…結果的に起こしちゃったけど。
どうせならせめて私が携帯を取り出す前に起きて欲しかった。
あとは、咲山がまさかの仕返しを始めたのがいけなかった。
シメられるのは予想してたけど仕返しは予想外だ。
あんな愉しそうに近づかれたのも予想外だ。



昼休みの出来事を整理して落ち着こうとしたが見事に失敗した。
寧ろその時のことを思い出して再び心拍数が上がり始めてしまった。
…何このすっごい乙女思考。私ほんとは多重人格なんじゃないの。
ふとそんなことを考える。
最近ではよく思ってしまうことだ。
曲がり角を曲がりつつ深呼吸をすると丁度、前から来ていた人と派手にぶつかった。


「いっ…てぇ…っ」

「っ悪ぃ、……って、初風?」

「ぅ…え、咲山…?」

どこかで聞いたことのある声に名前を呼ばれ、顔を上げれば
そこには息を切らしてこちらを見つめる咲山の姿。
どうやら長時間走っていたらしく、咲山は肩で息をしていた。
…ていうかこのタイミング!?
今はマズイって、絶対…ほら、また心臓が…!!


「え、あれ…咲山何で、部活…」

「休み。帰り道で喧嘩売られたから買って全滅させたら援軍すげぇ来たから逃げてた」


何という咲山らしい理由。
喧嘩買って全滅させたって何、それ1人でやったんですよね。
……やば、想像したら凄いかっこよかったどうしよう。
心臓バクバク言ってるんですが。


私が片手で汗を拭いつつ後ろの様子を窺っている咲山を見つめて
パニックに陥りそうになっている時、咲山の後方から複数の荒々しい男の声が聞こえてきた。


「ちっ、来い初風。お前ここに居たら巻き込まれる」

「え、えぇっ!?何で!」

「俺と同じ帝国の制服来てるし、俺と話してるとこ見られてるから」



真顔でそう言ってのけた咲山は私の手を引いて走り出した。
私は何の抵抗も出来ずに彼について走り出した。
ちらりと後ろを見やれば10人は居るであろう集団が私達を追いかけてきていた。





その男達の手にはそれぞれ



鋭く光る、凶器になりそうなものが握られていた。







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