お昼休みの脳内戦争
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少し離れた廊下からは女の子の楽しそうな声。
しかし、その声は私の耳には届いていなかった。


何故かと言えば、今が昼休みだからだ。
そして、屋上に居る咲山の元へと向かっている途中だからだ。

今朝の辺見の言葉も手伝って通常よりも遥かに心拍数が上がっている。
周りがどれだけうるさくても自分の心臓の音が聞こえるくらいだ。


あれだけゆっくりと階段を上っていたにも関わらず
既に目の前には屋上へと続く扉。
その場で深呼吸をして、自分自身を落ち着かせてからがちゃりと扉を開いた。



「……寒っ、」


扉を開いた瞬間、冷たい風が私の身体に触れた。
扉を開いた一瞬だけ、冬が香った。
寒さに震える身体を温めつつ辺りを見渡すが、そこに咲山の姿はない。
まだ来ていないのか、と思ったがとりあえず昨日のように
給水塔の上へ行ってみることにした。


「…あ、居た」


給水塔の上へ続く梯子を登れば、そこにはこの寒い中
呑気に寝転がっている咲山の姿があった。




…何で寝られるんだ、寒いだろ。
あの人感覚神経麻痺してんのかな。
……ていうか、マジで寝てんの?
寝てたらどうすればいいの、起こすのか?
…いや、辺見が
咲山の寝起きは最悪だから何があっても起こすなよ、って言ってたからな。
起こさない方が身のため…、でもいつ起きるの、起きないんじゃね?……。
それより、私は咲山と普通に話せるのか?
…ん?待った、普通ってどんな感じだ、……だめだ分からなくなった、どうする。




暫くの間、その場で脳内会議が行われていたが答と名のつくものは何一つ出なかった。
そこで私はとりあえず何かしてみようという考えに至り、
咲山の近くに行くことにした。







「……え、この人マジで寝てる」


咲山の傍に行くと規則正しい寝息が聞こえてきた。
…完全に寝ている。何処でも寝られるのかこの人は。


「ていうか……あれ、寝顔可愛いかも…?」


マスクを着けたままにしているためよく分からないが、
初めて見る咲山の寝顔に内心、冷静にはなれなかった。
…どうしよう、写メ撮りたい。撮って良いかな、いやでもバレたら死ぬかな、
いや、でも撮りた…いやいやいや。

じっ、と咲山の寝顔を見つめる私の脳内では好奇心と恐怖の戦争が始まっていた。
…平和になれ、私!!





――――カシャッ、




不意に耳に入ったシャッター音に我に返ると、私の手には自分の携帯。
更にその携帯には咲山の寝顔が写っていた。
……あれ、好奇心が勝っちゃった、?ていうかいつの間に…。

……よく考えたらヤバくないか?
相手は不良で有名な咲山修二ですよ?
シメられるの私なんじゃ…。
何、携帯が勝手に…!!とでも言えばいいのか?



「…お前、隠し撮りなんて良い趣味してんじゃねぇか」



何の脈絡もなく聞こえてきた声にびくりと肩を揺らした。
声のした方を見ると、そこには先程まで閉じられていた目が薄く開いている咲山。

起きていらっしゃった……!!!!
まさかの起きていらっしゃいましたよ…!!!?
さっきのシャッター音でお目覚めですか…!!!??

突然の事に私は見事にパニックに陥った。
何かを言い返すこともできない。
序に携帯を隠すことも。

それより何か咲山がニヤついて……あ、あれ……嫌な予感が…!



「…なぁ、俺の撮ったんだからお前のも撮らせろよ」


硬直する私に自分の携帯を構えて近寄ってくる咲山。
マスクがあるにも関わらず咲山の表情はよく分かった。





…まずい、写メどころではなくなった。
心臓破裂の危機だ…!!








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