落ち着かない朝 ---------
「よぉ、麗亜」
「……おす、デコ」
「朝から喧嘩売ってんのか、てめぇ」
珍しく朝の登校中に遭遇した辺見と、いつもは教室・廊下で行うお約束の挨拶。 朝練は、と訊くと今日休み、と即答された。 …成程、だから辺見がこんなところに居るのか。
それにしても眠い。昨夜はほとんど眠れなかった。 原因は言わずとも知れた咲山のメール。 ……やはり私の命は今日の昼休みまでなのか。
辺見と談笑をくりかえしつつそんなことを考えていると 不意に辺見に何怖ぇ顔してんだよ、とデコピンされてしまった。
「…痛い、何」
「眉間に皺寄ってんだよ」
「え、マジで」
「マジで」
「それはまたご親切にどうも」
どうやら、無意識のうちに眉間に皺が寄っていたらしい。 デコピンされた仕返しにぺチッと音を立てて辺見の急所を叩いた。
「いっ、てめぇ…喧嘩売ってんのか…!」
「喧嘩は売ってねぇ、急所叩かれたくらいでそんなに怒らなくても…」
「デコは急所じゃねぇ!」
再び辺見の攻撃を喰らってしまった。 しかも今度は後頭部をバシッと。 これがまた痛い。脳細胞が大幅に減ったな。 辺見の奴め、デコの分際で私を殴るなんて論外だろ。
「お前今失礼なこと考えてんだろ。つーかお前、昨日咲山と話したか?」
「あっ…あぁッ!?さ、咲山…は、話したけど…何、?」
エスパーか、と心の中でツッコむと同時に辺見の口から 発せられた咲山の名前に過剰に反応してしまった。 何で知ってんの、と続けて問えば辺見はやっぱりか、と頷いた。 …いや、質問に答えろ。
「昨日の部活の時、咲山が珍しく上機嫌だったんだよ。 話訊いたら面白い奴見つけたって言っててな」
「それで何であんたの予想は私に行き着いてんスか、私は別に面白くないッスよ」
咲山が男っぽいくせに女っぽい奴って言ってたからお前かな、と思って。
辺見はいつもの様にニヤニヤとした笑みを浮かべてそう言った。 その後に「お前もコロコロ口調が変わる奴だな」と苦笑する。 …ニヤニヤするか苦笑するかどっちかにしやがれ。
ていうか何、男っぽいくせに女っぽい=私ですか。 何その方程式。誰だよこれ作った奴。
「まぁ、とりあえず、あいつに気に入られるなんてよっぽどだぜ。ってことが言いたかったんだよ」
そう言って私の頭をワシャワシャと掻き撫でながら笑う辺見は じゃ、俺こっちだから、と自分のクラスへと入って行った。 ……あいつは、やっと落ち着いた私をパニックにする気か。
その辺見のとなりの教室である自分のクラスに足を踏み入れつつ しつこいくらいに脳内でリピートされる辺見の言葉を誤魔化すように 先程、辺見によってぐしゃぐしゃにされた髪を次は自分で掻きまわした。
…辺見も咲山も、クラスが違って良かった。
(私のこんな姿を見たら) (きっとしつこいくらい、からかわれるだろうから)
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