部活が終わり部室へ続く渡り廊下でマジバ寄って帰るかなんて話していたら、なにやら焦った様子の担任教師にばったり出会した。
火神の顔を見るなり顔を輝かせた彼は、丁度いいところにいたなオマエちょっと面貸せ上手くやったら飴やるから!なんて言うや否や問答無用で火神のTシャツの首根っこを掴むと職員室へ拉致…もとい連行していった。
そんなまるで嵐のような始終をポカンと見守るしかなかった自分は、しかし次にはハッと我に返ってとりあえず着替えようと部室に向かう。
体育会系でもないのに火神君を引き摺って行くなんて侮れませんね…なんて担任に対し見当違いなことを考えながら着替えを終えると、彼を待つため校門までゆっくり歩き出した。
(部室で待っていようかとも思ったけれど、カントクと主将と木吉先輩が何やら話し合いを始めるようだったので)


随分と冷たくなった風にふるりと身体を震わせ、校門に背を預けると手持ち無沙汰に空を見上げる。
少し前まで同じ時間帯でも長く美しく存在していた茜空は、今ではすっかり形を潜め深い群青へとその色を変えていて。
ふと、それが苦手だった過去の自分を思い出した。

己の役割を理解しただひたすらそれを真っ当しようとしていた頃の自分はとにかく闇が支配する夜が嫌いだった。
群青が色濃くなるほど、その濃さに自分が融けていくのではないかと恐怖した。
まるで指の先から同化していくような感覚に、そんなことはありえないと分かってはいても指先を強く擦り合わて必死に否定していた昔。
一人ではいつか分からなくなるであろう闇と自分の境界線に吐き気すら覚え始めていたけれど、しかし今、そう考えることは殆どない。

必ず見つけると彼は言ってくれた。
ぽつりと零した恐怖心に、ならばと約束してくれたのは、己の唯一の光源。





「悪い、待たせた」



ついつらつらと昔を思い返していれば、突然聞き慣れた声がして髪をくしゃりと撫でられた。
乱暴なようで実は繊細な、そんな撫で方をする人は一人しかいない。
空へ向けていた視線を彼へと移すと、急いで来てくれたのだろう、息を切らせたその様にほんのり心が暖かくなった。



「そんなに待ってませんよ、それより用事ってなんだったんですか?」

「あー…、職員室にかかってきた苦情の電話の対応?」

「なんで疑問系なんですか、てゆーか火神君が対応とかありえないでしょう」

「本当失礼だなオマエ…、相手が英語しか話せない外人だったんだよ、運悪く英語教師はもう家帰ってて担任は英語得意なヤツ探し回ってたんだと」

「なるほど、それでどんな苦情だったんですか?」

「それがなー、どう聞いても宅配ピザへの文句だったんだよな」

「はい?」

「ここ学校だぞって教えてやったら無言で切りやがった」



謝罪くらいしろってのと間違い電話に憤る彼に苦笑して、お疲れ様でしたと労りの言葉を向ける。
すると彼は何か思い出したようでポケットを探ると、黒子とこちらの名を呼んだ。



「口、開けろ」



脈絡のない要求に首を傾げるも、言われた通りに口を開ける。
するとすぐさま口内にコロリと何かが入れられた。
反射的に口を閉じて小さく丸いそれを舌で転がせば、広がったのは甘い味。



「飴?」



可能性の高い答えを述べると、正解と笑った彼は包み紙をこちらに渡しながら担任にもらったのだと詳細を教えてくれた。
(そういえば担任が彼を拉致る際上手くやったら飴をやると言っていた気がする)
オレも食うかと別の飴を取り出した彼を横目に、そして次に渡された包み紙を見ればそれは某大手菓子メーカーのもので。
彼が食べるには甘すぎるミルク味を、もらってきた理由なんて唯の一つ。

たった、一つ。



「火神君」



呼べば当然のように合わせてくれる視線。
そんな彼がすごくすきだな、なんて本当に今更なことをいつも思う。



「ボクのことすきですか?」

「いや、あいしてっけど?」



いきなりどうしたんだよと怪訝な顔を作る彼に、なんでもないですよと笑顔を返して。
そろそろ行きますかなんて言いながら未だ納得がいかない表情の彼の手を引くと。
いつも通り、マジバまでの道を辿った。








群青の空の下
(いとしい君と、過去の恐怖と、甘い飴と)





END.

素敵企画に参加させていただきありがとうございました。
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