パタパタと忙しなく歩き回る音。
室内に満ちるは芳しくも食欲を誘う香り。
「手塚さん遅いな」
チラリと時計を仰げば、短針は既に八の数を僅かに過ぎていて。
浅く腰掛けていた椅子に凭れかかり、プゥと音を立てて息を吐いた。
ここは手塚の住むマンションだが、いるのはリョーマ一人。
以前から泊まる約束をしていたこの日。
学校から一緒に帰宅する予定だったのだが、その間際に手塚の元へと来訪者が訪れた。
高等部に通う手塚の先輩らしく、そのまま話があるのだと呼ばれて行ってしまった。
先に帰って夕飯を用意しておけと言い残して先輩の後に付いて行った手塚に従い、夕食の準備も万端に整えた。
後は食べるだけなのだが、肝心の手塚が帰って来ない。
夕飯をリョーマに言い付けたのだから、食事を共にするつもりはあるのだろうけれど。
「……遅いなぁ……」
もう一度呟いてテーブルへとコトリと額を付ける。
モヤモヤとした感覚がさっきからずっと胸に蟠って、小さな呻きを漏らしながら頭の向きを変えた。
手塚が帰って来ない。
それもモヤモヤの原因だろうけれど、一番の要因は──。
「手塚さんとあの人……どういう関係なのかな……」
手塚を呼んだ先輩が、女の人だったという事。
しかも、美人。
疑う気はないのだが、やはり不安だ。
手塚に限って浮気なんて事はないだろうけれど、と眉尻を下げる。
しかし、それをキングダムの者が聞いたならば声を揃えて否定を合唱した事だろう。
手塚ならば浮気の一つや二つ、むしろ二股三股など当たり前だと。
実際去年までの手塚はその類であり、跡部と忍足、仁王と肩を並べたプレイボーイ──というと語弊があるが、所謂女癖の悪い男だった。
ただ、リョーマと付き合うようになり、今年に入ってパタリとその傾向が身を潜めただけの事。
だからこそリョーマは手塚の女性遍歴を知らない。
不器用で優しい人だ、としか思っていないのだからメデたい。
不安に苛まれる胸からフゥと息を吐き、少しでも気分を晴らそうと努める。
手塚を疑うなどしては駄目だと頭を振るい、連絡を取るべく携帯を手に取った。
ちょうど、その時。
──ガタッ!
玄関から、物音。
パッと視線を上げたリョーマの先で、カチャリと鍵が回った。
「手塚さん!」
帰って来た!と頬を綻ばせ、足早に玄関へと走り寄る。
同時に、ガチャリとドアノブが回り、外の空気が漏れ込んだ。
フワリと僅かに髪が揺らされ、玄関先へと足を止める。
そして、微かに開いたドアが、バタンッと勢いよく開かれた。
そのあまりの荒々しさに、ビクリとリョーマの肩が跳ねる。
そして同時に、目を見開いた。
「手塚さん?どうかしたんですか!?」
開け放たれたドアに肩を凭れさせ、大きく肩を上下させる手塚が、そこにいた。
その呼吸の荒さとグッタリとしたその姿に、リョーマがサッと顔色を変えた。
体調でも悪いのかとその長身を支えようとその腕を取る。
ピクリと、手塚の肩が微かに揺れた気がした。
「凄い熱……。横になってください!歩けますか?今忍足さんに……──」
連絡を、と言う言葉は皆まで続く事なく。
リョーマの喉に絡み付いた。
否、正確には手塚の口に、だ。
矢継ぎ早に手塚の身を案じたリョーマの腕が突然引かれ、手塚の腕に囚われたかと思えば。
バタンッと空気圧を齎しながら閉じられたドアに華奢な肩が押し付けられ、唇を奪われた。
「んッ……んぅ……ふ、ぁ……ンん……」
それも、荒々しい所作で以て。
まさに“貪る”という以外に形容のしようがない様で。
我が物顔で咥内を蹂躙するぬめりを持った手塚の舌が上あごを舐め上げ、ビクリと細腰が跳ね上がった。
「ふぁ……んャ……まっ……ンッ!」
唇が解放される瞬間にあげようとした抗議の声も再び齎された唇に霧散する。
ジワリと涙の滲み始めたリョーマの瞳から、徐々に抵抗の意志が削ぎ落ちていく。
リョーマの手をドアに縫い付ける手塚の手が、スルリと離れた。
解放されるのかとうっすらと瞳を持ち上げたリョーマが、手塚を見上げた。
「てづ……あッ!ヤッ!」
名を呼ぼうと開いた唇はしかし、またも皆まで紡ぐ事は叶わず。
ビクリと震えた身体に阻まれた。
手塚の手はリョーマの手首を解放し、そしてリョーマのセーラー服の中へと忍び込んだ。
下着の上から小さな乳房を揉み込まれ、フルリと白い喉を曝した。
「やぁ……!まっ……ぅン!」
下着が欝陶しくなったのか、ホックを外すのももどかしいとばかりにソレがずり上げられ、直接揉み込まれたのはその直ぐ後。
そして同時に手塚の膝がリョーマの脚を割り、陰部を擦り上げる。
「んんッ!ンっ……んっ!」
今だ塞がれたままの唇から、甘ったるい吐息が零れ落ちる。
性急にして強引な愛撫。
乳房を強く揉みしだかれ、膝によって陰部を擦り上げられ。
咥内すらも蹂躙されて。
飲みきれなかった唾液がツと口端を零れ落ちた。
「ん……ふ……あっ!あァっ!ヤっ……やぁ!」
漸く唇が解放され、安堵に肩を落としたリョーマの身体が、派手に跳ね上がった。
手塚が首筋に噛み付き、執拗なまでに肌を吸い上げてくる。
同時にスカートから覗く太股に指を這わされ、その手が下着の上から陰部をなぞる。
ビクッと震えたリョーマの脚が、手塚の手を拒むようにキュと閉じられた。
「……邪魔だ」
今の今まで一言も発しなかった手塚が呟いたのは、そんな台詞。
押し殺したような呟きは常よりも低く、そして掠れた響き。
舌打ちとともに手を阻むリョーマの脚を強引に押し開き、その片足を肩へと拾い上げてしまう。
「やっ!いやぁ……」
「黙れ」
片足を担がれ、強制的に陰部を曝す形となり、リョーマがフルフルと首を振るう。
目尻に溜まった涙がハラハラと散った。
しかし手塚の手は休む事なく。
中断していた乳房への愛撫が再開され、プクリとした乳首を摘み上げた。
ブルッと震えたリョーマが喉を曝し、きつく瞳を閉じる。
性急に下着をずらし、陰部を直に撫で上げた指は明確な意志を持って胎内へと。
「……濡れているな。嫌だと言う割には随分な淫乱ぶりだ」
「ちがっ──ぁんっ!」
辛辣な言葉の刃を退けようとした反論も、胎内を擦り上げる指先に飲み込まれた。
始めから二本の指を突き入れられ、グチャグチャと水音を立てながら内部を掻き回される。
乳房を揉まれ、人差し指の腹で先端を転がされて。
無遠慮な悦楽にリョーマの身体が幾度も跳ね上がった。
「あっ……はぁ……あ、ァん!」
不安定な体制を支えようと後ろ手にドアへと縋り付くリョーマの手が、キリと鉄に爪を立てた。
拒絶の言葉もまともに吐けず、意味のない嬌声だけを吐き出して。
耳朶にかかる手塚の息が熱い。
俄かに上がった荒い吐息にすらゾクリと背筋が戦慄き、陰部を犯す指を締め付けた。
「……充分だな」
一人ごちた手塚が、僅かに身体を離した。
同時に陰部を苛む快楽が遠退いた。
チュプと微かな水音が鼓膜を撫で、カッとリョーマの頬に熱が灯った。
「──え?やっ!てづか……さっ!まっ──」
途端、突然地面に付いていた筈の脚が浮き上がった。
目を剥くリョーマが制止の言葉を紡ぐその前に、抱え上げた両足のあわいへと手塚の腰が押し当てられる。
そして、一片の躊躇すらなく熱い肉塊の上へと、リョーマの身体が下ろされた。
「あァ────っ!」
「っ!」
一気に奥まで咥え込んだ男根に、リョーマの喉がのけ反る。
突然の侵入者に締め付けを強めた陰部が、手塚の顔を歪めさせた。
「あっあっあっアんッ!んっふぁ、あっあァ!」
息を付く間もなく、ガクガクと揺さ振られ。
情け容赦なく突き上げられ、リョーマはただ喘ぐ以外なく。
背をドアに、前を手塚に。
そして両足を担ぎ上げられた不安定な体制での突き上げは、常にない深さまで手塚の肉棒を潜り込ませる。
縋るように手塚の首へと回されたリョーマの手が、その背へと爪を立てた。
「あぅッあっはぁ、はげしっ……いやァ!」
「っ……リョーマ……」
パンパンと肌のぶつかる音が立つ程に激しい抽挿。
悦楽に蕩けた瞳で見上げたリョーマが見たのは、情欲を滾らせたオス。
ガクガクと揺さ振られるままに強引な快楽に背筋を撓らせ、虚ろな瞳を宙に投げる。
「あっあっあッアッやっ、んンッ!イ……イっちゃ……うぅ!」
嵐に巻き込まれるような刺激に慣れきっていない身体が震え、凶悪なまでの突き上げに耐え切れる筈もなく。
キリと手塚の背を掻く。
悲鳴にも似た訴えにも、手塚の手が休まる事はなく。
むしろその深さを増し、そして胎内で体積を増す。
ビクッと跳ね上がったリョーマの爪先が、手塚の背で強張った。
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