たとえば君が傍に居るだけで1


滑稽に踊る、機械仕掛けのマリオネット。
点滅する、色彩豊かな光。それは、きらびやかな電飾のさざ波。
喧騒の中に、子どもたちのはしゃぐ声。
そして、愛を語らう恋人たち。

そんな人々が行き交う渦の中、明らかに場違いな、俺たち。

「…ほら見ろよ、センセー。ずごくキレイだと思わねェか?まるで夢の国に居るようだよな。ピカピカ光り輝いて。まるで宝石箱をひっくり返したみたいだと思わねェ?」
「はん?……あぁ、そうだな」

半歩前を歩く人物が指差す方向に視線を滑らし、俺はお座なりに言葉を返す。

正直、こういうモノは、全くと言って良い程、興味がない。
こんなモノを眺めて、何が楽しいんだか、などと冷めた目で見てしまうのだが、目の前のに居るこの男は、どうやら違うらしい。
焦げ茶色の双眸を、キラキラと年甲斐も無く輝かせて。まるで小さな子どものように…。
一緒に連れて来た六条たちより、こいつの方がはしゃいでいるように見えるのは、俺の気のせいなのだろうか?



俺たちはその日、萬天からそう離れていない小さな町に訪れていた。
と、いうのも、その町が町興しも兼ねて、大規模なクリスマスのイルミネーションをやっているという情報を、雪見が入手してきたからだ。

その情報網は、流石ライターと言うべきか。萬天の近郊の小さな町の至極ローカルな情報も、こうやって嗅ぎ付けてくるのだからな。

俺は最初、雪見に付き合うつもりなど、さらさらなかった。
男二人でイルミネーションなんて、ただの気違い沙汰としか思えなかったからだ。

だが、それこそ何処から聞き付けたのか、六条と宵風も一緒に行きたいと言い出して、未成年者を二人で行かせる訳にはいかず、俺は雪見の誘いを渋々了承する羽目になった。

…まったく、七面倒くさいことに巻き込まれたものだ、と、俺は堪らず、大仰な溜め息を吐き出す。
すると、前を歩いていた雪見の足が、ピタリと止まった。

「…やっぱり、つまんねェか?センセー」
「はん?」
「そりゃ、つまんねェよな、こんなん見たって」

雪見はこちらへと振り返り、苦笑を浮かべる。

「俺は…、残念ながらあんたが期待するようなロマンチストじゃないからな」
「オレだって、別に凄ェロマンチストって訳でもないんだゼ。サンタを信じてたのだって、小学校低学年までだ」
「だがさっき、あんた言っていたじゃないか、まるで夢の国に居るみたいだって。宝石箱をひっくり返したみたいだって」
「あぁ、言ったな。確かに言ったが、オレは誰もが黙る、売れっ子ライター様だゼ?それぐらいの表現は朝メシ前ってモンよ」
「しかし…」

きらびやかなイルミネーションを見て、あんなにも楽しそうにしていたではないか。あれはやっぱり、俺の気のせいだったのだろうか?

「もし、アンタの眼に、俺が楽しそうに映ったとしたならば、それはアンタと一緒に居るからだよ」
「え?それはどういう…」
「好きなヤツと一緒に居れば、瞳に映る世界も違って見える、ってことさ」

何気なく紡がれた言葉に、ドキリと胸が弾む。

「有り触れたはずの光景も、センセーと一緒に見れば、オレにとっては別世界に変わるんだ」

例えばそうだなぁ、と嬉しそうに雪見は指を指しながら、話し出す。
連なる並木道の木々は光の森に。時折聞こえてくるクリスマスソングは、風のさざめきに。赤く色づいたポインセチアは、煌々と燃える、ろうそくの炎に。

「リアリストのセンセーには、もしかしたら理解して貰えねェかもしれないけど…。でもオレは、凄ェ嬉しいんだゼ。センセーとこんな風に、一緒に時間を過ごせることが。…まぁ、お互い、コブ付きではあるけどな」

そう言って、雪見は豪快に笑う。
どうしてこいつはいつもいつも、歯の浮くような台詞を、こんなにも恥ずかしげも無く言えてしまうのだろう。何の躊躇いも戸惑いも無いままに。
そんな雪見の真っ直ぐな気持ちは、ダイレクトに俺の心を揺さ振り、熱く滾らせていく。


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