初体験


それは雷光と俄雨二人揃って、近くのマーケットまで買い出しに出た時のことだった。
夕食の材料を全て選び終わった二人は、会計を済ませようとレジへ向かうと、徐に雷光が足を止めた。それに釣られるように俄雨も立ち止まり、彼の視線を追う。

「…おや、俄雨。あの列はなんだろうね?」
「え…っと、あれは恐らく、セルフレジの列だと思うのですが…」
「セルフレジ?」
「はい、お客さんが自分で会計を済ませる機械のことです」
「へぇ、今はそんなものがあるのかい?便利な世の中になったもんだね」
「そうですね。…どうやら操作方法はとても簡単に出来るようで、画面の指示に従って行えば良いみたいです」
「ほ〜、面白そうだね、じゃあ、私たちもあちらに並ぼうか?」
「えっ?ちょっと待って下さい。折角こちらに並んだというのに、ですか?次、僕たちの会計なんですよ?」
「大丈夫、大丈夫。話をしていれば、順番なんて、きっとあっという間に巡ってくる」
「……大丈夫って…」
「…何だい、俄雨。あの列に並び直すことが不服だというのかい?」
「…い、いえ、とんでもないですっ。喜んでお供させて頂きます」
「…じゃあ、あちらの列へ行こうか、俄雨」
「は、はい…」

――それから15分後。

「では、早速…」

ピー…。

「おや?」

ピー…。

「おやおや?」
「どうなさいましたか?雷光さん」
「う〜ん、何度やっても上手く機械が読み取ってくれないんだよ」

ピー…。

「ほら、まただ…。私はこの機械に嫌われてしまったのだろうか?」
「雷光さん。今、手に持っているものを僕に貸して下さいませんか?」
「…あぁ、これかい?」
「あ、ありがとうございます。これはですね、こうやるんですよ」

ピ、ピ…、298円です。

「おうっ、反応した」
「こうやって、こちらの画面に商品に貼ってあるバーコードを近付けるだけで良いんです」
「おぉっ!!本当だ。お前は天才だね、俄雨」
「いえ、あの、僕は何もしていませんから…。雷光さんも直ぐに出来るようになりますよ」
「そうかい?」
「勿論です。それでは、カゴの中にある残りの商品をやってみて下さい」
「あぁ」

ピ、ピ…、158円です。

「おぉっ、私にも出来たよ、俄雨」
「その調子ですよ、雷光さん」

ピ、ピ…、98円です。
ピ、ピ…、368円です。
ピ、ピ…、129円です。

「どうやら、私もコツを掴めたようだよ」
「そうですか、それは良かったです。それでは、残りの商品、は雷光さんにお任せしちゃっても宜しいでしょうか?僕は買い忘れた物があるので、ちょっと取りに行ってきたいのですが…」
「あぁ、行っておいで」
「直ぐに戻ってきますので…っ」

――それから更に、数分後。

「お待たせしました、雷光さん」
「お帰り、俄雨」
「どうですか?」
「あぁ、問題ないよ。お前を待ち切れなくて、支払いまで済ませてしまったよ」
「すごいじゃですか、助かりました」
「これが機械から出て来たレシートだよ」
「ありがとうございます…」

しばしレシートを見つめた俄雨が、驚愕したような顔で雷光へ視線を向ける。

「……な、何なんですか、この金額は…っ」
「え?何か間違っていたかい?」
「間違ってるも何も、何故、全て二個ずつ計算されてあるのですか?」
「あぁ、これかい?ちゃんとこの機械が読み取っているか心配だったから、私が故意に二回ずつ通したんだよ」
「なんでそんなことしちゃうんですかっ?」
「……?いけなかったかい?」
「……支払いは…済ませてしまったんですよ、ね?」
「おかしなことを訊く子だね、お前は。先程、言っただろ?全て会計済みだと。お前が手に持っているレシートが何よりの証拠だ」
「………」
「おや?何処に行くんだい?」
「ちょっと店員さんを呼んできます」
「え?どうして?」
「それは……自分の胸にでも訊いて下さい…」


「……自分の胸に??変な子だね。…にしても、結構、楽しいものだね、セルフレジというのは。また此処に来たら、試してみるとしよう」



初体験
(メルマガにて発行)


4/4

back next


Back




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -