涙を流せるということ


はらり、と。
透明な雫が零れ落ちる。
はらり、はらりと。
透明な雫が頬を伝う。
それにハタと気付いた時、自分が涙を流していることを漸く理解した。

「俄雨、泣いているのかい?」
「……はい」

コクリ。
静かに頷くと、雷光さんが一歩僕に歩み寄る。

「哀しいことでもあったのかい?」

ふるふると首を横に振って、違うんです、と僕は言う。

「では、何か辛いことが?」

再び、首を左右に振る、僕。

「…違うんです。違うんですよ、雷光さん」

僕は決して、哀しい訳でも、辛いことがあった訳でもない。
ただ、ただね…。

「とても倖せだなって思ったんです」

母を失ってからというもの、僕はこれまで虚勢を張って生きてきた。辛いことがあっても、哀しいことがあっても、決して涙は流すまいと誓ってきた。
だって涙を流すことは弱さだと、ずっとずっと思い続けてきたから。
だけど、雷光さんに出会い、雷光さんを好きになって、それは間違いだということに気づかされた。
弱さを見せないことが強さとは、限らないのだと。
涙は誰かに見せてもいいものなんだと。

そう思ったら、何故か――。

「自然と涙が溢れ出してきて…」
「俄雨…」
「こうやって、誰かの前で涙を流せることって、とても倖せなことなんですね」
「…あぁ、そうだね。そうかもしれない」

更に一歩、雷光さんが僕に近付く。

「…お前は一人ぼっちじゃないよ、俄雨。お前には、雪見先輩が居る、宵風が居る、壬晴君が居る」
「…雷光さん」
「…そして、この私が居る。だから、お前はもう独りじゃないんだ」
「……はい」

ゆっくりと伸ばされた指先が、涙を優しく拭う。涙で濡れた頬を優しく撫でる。

「僕、今まで生きてきた中で、今が1番倖せです」
「私もだよ、俄雨」



知らなかった。
僕はずっと知らなかった。


倖せを深く感じると、涙が止まらなくなるということを、僕はこの夜、初めて知ったんだ――。



涙を流せるということ

(20091210)


2/4

back next


Back




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -