AprilFoolに焦がれて1


「どうしたんだよ、壬晴。何だか、今日、妙に溜め息が多くない?」

6時限目を終えた教室。
クラスメートたちがいそいそと帰り支度を始めている中。
何もせず、ただ机に突っ伏している俺に、雷鳴が後ろからつんつんと突いてきた。

「お腹でも痛いとか?」
「別に、そんなんじゃないよ」

軽く否定して、のろのろと顔を上げる。

「恋患い?」
「違う」
「じゃあ、何だよ」
「結局今年も、何もしないで終わっちゃったなぁ、と思って」
「だから、何が?」
「エイプリル・フール」
「エイプリル・フール…?」
「そう」

訝しげな声を漏らす雷鳴にそれだけ答えると、頬杖をついた状態で前方へ、ゆるり視線を滑らせる。
教壇の前に、女子生徒たち。5、6人くらいは居る?その子たちに囲まれるように、真ん中には雲平先生。
さっきの授業で分からないところを、先生に尋ねているのだろうか。それとも…。
俺の席は教壇から結構距離がある為、その台詞の内容までは聞き取れない。
それでも楽しそうだというのは、時折聞こえてくる女の子たちの笑い声で、何と無く分かった。
雲平先生も笑ってる。いや、あれは女の子に囲まれて、喜んでいるんだ、きっと…。

「…エイプリル・フールって、壬晴、何かするつもりだったの?」
「うん。そりゃ、もうやる気満々、大々的に」

俺の答えに、雷鳴は何処か驚いたような表情を向けてきた。

「…へェ、何か、意外だね。いつも無関心な壬晴が、そういうイベント事に興味を持つなんてさ」
「何に対しても無関心って訳じゃないよ。俺にだって、夢中になることの一つや二つぐらいはあるし…」
「例えば、宵風のこと、とか?」

俺の心を見透かしたかのように、雷鳴がニヤリと笑う。

「な、なにそれ。なんでそこに宵風が出てくるんだよっ」
「ムキになっちゃって。相変わらず可愛いな、壬晴は」
「俺は別にムキになんか…。雷鳴が急に変なことを言うからだろ」
「私はちゃんと例えば、って前置きをしたよ?ふふ、頬まで朱くしちゃってさ。壬晴のその反応、まるで図星だと公言してるみたいだ」
「もう、雷鳴…っ」
「照れることないじゃん、好きなんでしょ?」
「そりゃ……」

俺は堪らず言葉を詰まらす。
雷鳴の台詞は、あながち間違ってはいないのだ。
好きじゃないと言えば、嘘になるし。俺自身、多分、彼が好きなんだと思う。
はっきりと断言出来ないのは、俺はまだ好きだという感情がよく分かってはいないから。
でも、宵風と出会ってからというもの、彼が俺の心を占める割合が、日に日に多くなってきているのも事実で。
宵風は俺にとって、今、最も気になる存在であり、大切な存在なのだということは、言い切れる。

だけど、そんな話をしてるんじゃない。
エープリル・フール。そう、俺たちはその話をしているんだ。

「と、とにかく」

俺は慌てて脱線しそうになった話の軌道修正を図る。

「宵風の話は、今してないから」
「ごめん、ごめん。壬晴をからかうのが楽しくてさ、つい…」

言って、雷鳴は悪戯っぽく舌を出す。

「何だよ、ついって…」

からかうのが楽しいなんて。される側としては何とも嬉しくないんだけど。

「で。エープリル・フールがどうしたの?」
「だから、嘘を付くのを世界的に許されてる、夢のような日に何もしないなんて、何だか凄く勿体ない気がする、って話。雷鳴もそう思うだろ?」
「う〜ん、そう?私は特に考えたことないけどなぁ」

同意を求める俺に、雷鳴は曖昧な返事をする。

「ねぇ、壬晴。これはさっきも言ったことなんだけどさ。壬晴はエープリルフールに何をするつもりだったの?」
「ふふ、それはね…」

僅かに楽しさを顔に滲ませて、俺は思い描いていた計画を徐に口にする。


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