3

人形は嘘を吐いたので、鼻が伸びてしまいました。

「はぁっ、はぁっ・・・・・・・・・はぁっ!」
日が落ちてすっかり暗くなった夜道。星羅は訳もわからず走っていた。闇にまぎれて何かが追ってきてるのだけはわかる。
路地裏の室外機の影に身を潜めてじっと息を潜める。怖くて、心細くて、誰かに迎えに来て欲しくて携帯を探してポケットを探ると、手に覚えのない何かが触れた。
「これ・・・・・・・・・・・。」
取り出してみると猫のシルエットの印刷された名刺。震える手でボタンを押す。
「っ!!!」
ふと目をあげた瞬間、スーツを着た厳つい男と目が合ってしまい、星羅は戦慄した。
「ぅあ、ぁあ、」
意味をなさない声をあげながら後ずさる星羅に、男が手を伸ばす。さらに何人かの男が星羅を取り囲むように立っていた。背後は既に壁。逃げ道もない。
「いやぁ・・・・・・・」
頭を抱え、泣きじゃくる星羅に猿轡を噛ませ、軽々と抱えあげてどこかへ運んでいく。
「おやおや、男十人がかりで女の子を拉致とは、笑えるねぇ。」
「!」
聞き覚えのある声に顔を上げると、鈴が男の前に立ちはだかっていた。
「んんっ!んんんーー」
「またお前か。黒猫屋。」
他の男たちに比べて細身な男が煙草をくわえながら鈴の前に出た。
「はーい!クロネコヤ〇トでーす!そちらのお荷物、回収しますねー。」
軽口を叩きながらも鈴は男に向かって拳銃を構えている。男は煙草に火をつけ、美味そうに吸い、紫煙を鈴に向かって吐き出した。
「こちらは既に対象者を確保した。お前にかまっている暇はない。行くぞ。」
男たちは踵を返し、走り出す。
「ちっ、大雅!」
「おうよ!」
鈴の声に応えて、大雅は指を鳴らした。
「あ。」
指を鳴らした直後に大雅が声を漏らした。
「え?」
大雅の声に気を散らした瞬間に星羅が鈴の目の前に現れ、鈴の顔面に頭突きをかますように飛んできた。
「わりぃ、座標間違えた・・・・・・。」
「大雅ぁ・・・・・・・・・・・。」
鈴は鼻を押さえて痛みに悶絶している。そんな三人に男たちがゆっくりと歩み寄ってくる。
「っ!」
慌てて取り落とした拳銃を拾いに行くが、伸ばした手を踏みつけられた。
「ぐっ!・・・・・・・・・・ぅっ、がっ!」
「いい眺めだな、黒猫屋。」
睨み上げる鈴の手をぐりぐりと踏みにじりながら、男は冷たく見下ろす。鈴の拳銃を拾い上げ、安全装置を外し、鈴の頭に狙いを定めた。
「鈴っ!てめぇっ!離せよっ!」
鈴を助けようと構えた大雅は男の仲間に取り押さえられた。
「・・・・・・・・・・・っ!」
幸い、誰も星羅に注意を向けていない。星羅は目立たないように猿轡を外した。この能力は好きじゃない。でも、やらなければならない。星羅は小さく息を吸って覚悟を決めた。
「死ね。」
「止まりなさいっ!」
男が発砲したのと、星羅が叫んだのはほぼ同時だった。



「・・・・・・・・・。」
鈴、大雅、星羅以外のすべてが星羅の命令に従い、止まった。
「せ、星羅・・・・・・・・・。」
「足をどけなさい。」
鈴の手の上から足をどけさせ、鈴を自由にする。
「離しなさい。」
「おぉ、わりぃな。」
大雅を男から開放したところで星羅は意識が途切れた。
「うぉわっ、っと。」
倒れ込んできた星羅を受け止め、大雅が戸惑ったように鈴を見る。
「お疲れ様。彼女がここまで能力を使えるとは思ってなかったよ。」
そっと星羅の頭を撫で、大雅から受け取った。
「確かに、こいつの能力すげぇな。」
空中で止まったままになった弾丸を指で弾く。
「そういや、鈴、さっき踏まれた手は?コイツに移してやるよ。」
拳銃を突きつけるポーズのまま止まっている男を指さした。
「ほっといていいよ。そのうち唇を火傷するでしょ。」
くわえた煙草の火が男の唇の近くまで迫っている。
「行くよ。」
星羅を背負い、歩き出した鈴。
「・・・・・・・・・・・・・。」
「大雅?」
「お、おう。今行く。」
男の手から抜き取った拳銃をそっと後ろ手に隠し、鈴の後を追った。



「落ち着いて、何もしないし、あいつらはもういない。」
勢い良く起き上がり、慌てて周りを見渡す星羅を鈴がのんびりと制した。
「わ、私っ!」
「君のおかげで助かったよ。借りは返してもらった。もう一度頼むよ。」
パニックを起こしかけた星羅を遮って、鈴が話を続ける。
「僕らの仲間になってくれないか?」
優しく手を差し伸べられる。一度は拒んでしまった手。
「・・・・・・・・・・・・。」
おずおずと出した手を鈴の温かい手がしっかりと掴む。
「よろしく頼むよ、星羅。」
「う、ぁ、ごめん、なさい。」
言葉と共に涙が溢れた。鈴を殺そうとしたことへの後悔と助かったことへの安堵から涙が溢れて止まらない。子供のように泣きじゃくる星羅の頭を鈴はいつまでも優しく撫でていた。










人形を作ったのは誰?


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