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「紅月」
「はい、江流さま。」
あまり他の者達と一緒に食事を取りたがらない江流の為に紅月が彼の部屋に別に用意した食事を運んでいると眉間に皺を寄せた江流が声をかける。
朱瑛の位置からではそれ以上聞こえないが、また紅月が僧達の前に出たのかもしれない。
「全く…仲が良いこった。」
「立ち聞きですか。」
「うおっ」
後ろから突然声がし文字通り軽く飛び上がった朱泱は、ぎこちなく後ろを向いて苦笑いした。
「驚かさないでくださいよ。」
「すいません。」
にこにこと穏やかに笑みを浮かべた光明は朱泱の肩越しを見つめる。
視線の先には言わずもがな、江流と怒られている紅月の姿があった。
「江流の気持ちも分からなくはないんですがね。
あぁやって毎日怒られてるの見るとちょっと可哀相なもんで。」
「決して嫌いだから怒っているわけでは無いんですけどね…」
「それは分かりますよ。アイツ、紅月に対して可哀相なくらい怒るのはバレると此処に居られなくなるから、だって。」
「まあ…紅月にはあまり効果が無いようですがね…」
「あれだけ怒られてるのに何でいつも江流にくっつきたがるんだか…」
朱瑛が呆れたように肩を起こすと光明はクスクスと笑って口を開いた。
「さぁて…何ででしょうかね…」
「知ってるんですか?」
「内緒、です。そろそろ助けてあげましょうか」
そう言って光明は江流の部屋へと歩き出した。
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「……」
就寝時刻を過ぎ、茵に横になっていた江流はふと目を開いた。
隣を見ると自分に仕える少女が無防備にも安心しきった表情で静かに寝息を立てている。
紅月と同室になったのは此処数日からだった。
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