最遊記 | ナノ


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久々に、夢を見た。



酷く懐かしい、夢。





夢でも会えたのが
ーーー否、会いに来てくれたのが
泣きそうなくらい嬉しくて。


いつも向けてくれる自信に満ちた笑みに
赦されたような錯覚さえ覚えて
胸が痛む程、切なかった。






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『ー…つき…』






誰かが呼んでいる気がして、目を開けた。






「紅月ー?」

「悟、空…?」

「あ、やっと起きた!おはよ!」






悟空が住み始めて暫く経った。


一悶着あったものの、三蔵や水瞬が上手く事を収束させ徐々に寺院内の僧達が悟空の存在を受け入れ始めた。



一部、反三蔵派(といっていいかは分からないが)からは未だにとやかく言われているものの紅月も悟空も特に変わりなく平和な日々を送っていた。






「…あれ、今日早起きね?」

「んーん、違うよ?今日はさんぞーが俺を起こしてくれた。」

「…あ!大変!!
悟空、すぐ朝餉の準備をするから玄奘様の所へ行ってて!!ごめんね!」

「うん、大丈夫!待ってるな!!」






寝坊したのだと気付いた紅月は悟空が部屋を出た後に慌てて支度する。


手早く着替えて庭先備え付けられた小さな井戸で顔を洗い目を覚ます。






「おはようございます、玄奘様!」

「…遅い。」

「三蔵!そんな言い方無いじゃんか!」

「良いの、悟空。
申し訳ありません。すぐ朝餉の用意をします…!」

「(最初、紅月はもう少し寝かしとけって言ったの三蔵じゃんかー!)」






煙草を吸いながら水瞬が朝運んでくれた新聞を広げていた三蔵を一睨みして、悟空は味見という名の手伝いをしに紅月を追って台所へと走って行った。



その背をチラリと見送りながら三蔵は最後の煙を吹いて煙草を灰皿に揉み消した。






「…悟空が何やら怒ってましたよ。」

「お前、気配消して部屋に来るなと言った筈だが。」

「おや、すみません。」






悟空が走って行ったのと逆方向から水瞬が顔を出し、三蔵がギロリと睨む。



ほけほけと悪びれた様子もなく笑っていた水瞬は縁側に座って庭を眺めていた。






「大方、彼女を起こすなっと貴方が言ったのに紅月が起きてきたら悪態でもついたんじゃないんですか?」

「………」

「図星ですか」

「うるせぇ。」

「文句一つ言わない彼女は健気ですねぇ。」






新聞に視線を戻し暫く沈黙が続いたが、珍しくそれを破ったのは三蔵だった。






「珍しく、夢を見ていたようだったからな。」

「夢?」






誰が、とは言わずとも知れた水瞬はそのままオウム返しに問いかけた。






「物心ついた頃にはアイツは俺の傍にいたが、夢を見てるような感じは今まで殆ど無かった。」

「へぇ…それだけ彼女の夢が珍しいと、どんな夢だったかちょっと気になりますね。」






新しい煙草に火をつけた三蔵は、煙草を咥えて小さく呟いた。






「ーー……兄、か。」






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