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『私を、』
『そのお方のお傍に置かせて下さいませ…っ』
彼女はそう言って私と、物心もつかない赤ん坊のあの子の前に空から現れた。
『お願いで御座います…っ』
『私を、そのお方のお傍に…』
泣き顔にも似た表情で切望するその女性に私は暫く目を反らす事が出来なかった。
「光明さま、江流さま、そろそろ御時間です」
そう言って紅髪の少年は師と自分が仕えている少年のいる部屋の障子を両手で開けた。
「………」
「クスクス…分かりました。」
否、少年ではない。
「ほら、行きますよ江流。」
「…はい、師匠。」
穏やかに微笑む男性とは逆に、金髪の少年は眉間に皺を寄せていた。
「…紅月、」
「はい、江流さま。」
名を呼ばれた少年──否、少女はきょとん、と江流を見つめた。
「…他の奴らの所の前に出たのか?」
「?はい…皆様準備が整っていらしたのでこうして御二人をお呼びに来たのですが…」
「お前な…女だっての隠してんだからあまり人前に出るなって言っただろうが」
「ですが…」
「まぁまぁ江流。」
「師匠…っ」
「紅月には私から言っておきましょう。先に行って下さい。」
光明がそう諭すと江流は小さくため息をついて"甘いお人だ"と呟いて廊下を歩いて行った。
「すいません、光明さま…」
「いいえ、助かりましたよ紅月。呼びに来てくれてありがとう。」
「でも江流さまが…」
「うーん、そうですねぇ…」
落ち込んだように下を向いた紅月に困ったように笑って光明は口を開いた。
──心配してるだけで、実は怒ってないんですよ。
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