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「…………」
血の繋がらない“末の子”の髪にさらりと触れたモノクロのドレス姿の一見年若い女性は、目を覚ます様子のない彼女を心配そうに見つめて目を細めた。
数日前に目を覚ました彼女とタイミング良く会う事が出来たらしい、同じく自分と血の繋がらない“姉子”の話によれば、彼女はどうやら異世界とやらに魂魄を飛ばされている可能性があるのではという事。
にわかに信じがたいが実際に彼女がそう話しており、余裕が無いとばかりにそのまますぐ彼女は寝てしまったという事。
それからはどれだけ揺り起こそうが騒ごうがびくともしないという事。
「夢みたいな話…だけど、ただの人間からしたら念だって夢のような能力だし、魔女だって御伽噺の世界にしかいないような存在だものね。
天使や悪魔の生きる世界だってある…パラレルや異世界があっても不思議じゃない…」
なら、何故《彼女》なのだ?
粗方の経緯は連絡を受けた日に聞いている。
原因の可能性が高かった彼女が持っているネックレスは調べたし、皆の了承を得た上でアジトにいるメンバーには同じような現象が起きないか実験もしたが結果は惨敗。
ネックレスは成分や念を調べても何の変哲もないただのネックレス、実験も誰一人特に変わり無かったし、何も感じなかった。
あまりにも変化が無さ過ぎてウヴォーギンなんてネックレスを破壊すれば戻るのでは?と自分とクロロが慌てて止めなければ一瞬でネックレスを破壊してしまっていただろう。
唯一の鍵を壊してもし彼女が目覚めなかったら元も子もないのだ。
「……どうしたものかしら」
軽く頭を抱えてぼやいた魔女ーールナは規則正しく上下するエルルカの胸に乗っているネックレスの水晶を見て目を細めた。
エルルカ自身、家族であるクロロ達や自分の役に立ちたいと簡単な盗みくらいは買って出て盗賊としての訓練をしているようだが、如何せんエルルカには念能力を使用するにあたって“枷”がある。
無理をすれば少しずつ、だが確実に命を縮めるものだし、何より世界的に名の知れ渡った盗賊団の妹分だ。
万が一盗賊団を狙う復讐者や賞金稼ぎに見つかり捕らわれてしまえば終わりだろう。
クロロ達はエルルカの意を汲んで連れていきたい反面、それらを危惧してエルルカを表立って連れられない。
そしてそれを本人に告げる事は出来無いでいる。
エルルカの“世界”は彼らが中心だからだ。
彼女はきっと、命を縮めてでもクロロ達と共にある事を望む。
そしていざとなれば簡単に自分の命など切り捨てられる。
「……、…………uno(ウーノ、due(ドゥーエ)、tre(トレ)」
ふと気になる事を思いついたルナは少し下がって掛け声と共に左右のブーツを鳴らし最後にパチンッと指を鳴らすと何もない空間から一冊の本を召喚した。
「………あの子を拾ったのは確か…」
パラパラと勝手に捲られるページを目で追いながらルナはベッドの縁に腰掛けた。
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