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「報告!
右翼後方第10班…我々二人を除いて全滅しました…!!」
戻ってきた2人の言葉に、リヴァイは背筋が凍るような感覚に陥った。
声にはしないが、隣のエルヴィンやハンジ、少し離れた場所にいるミケも緊迫した表情で帰ってきた二人を見つめる。
ただ、悟られないようにしながらリヴァイは疑問を抱いていた。
生きていないなら何故、主がいない筈の制御石が反応している?
「テメェら、死体は見たのか」
「っ、班長は…目の前で…巨人に捕食、されました」
「…他はどうした。エルルカ、ペトラもいたはずだが」
「…あいつらは…」
報告している男ーーーロッドの後ろで、ギラが真っ青な顔をして震えている。
巨人に出くわしたのだ、恐怖に駆られるのも無理はないが、何か引っ掛かる。
もっと何か、恐れているようなーー
「……正直に言え」
「ひっ…」
「リヴァイよせ!」
チャキ、とブレードをロッドの首に押し当てる。
「別に、あいつらの無事は分からず置いて逃げてきたならそう言えばいい。
だが、応援を呼べと言ったのにテメェらがもし隠蔽しているのなら、容赦しねぇ」
ロッドの顔も真っ青になる。
ここまで来れば、エルヴィン達も何かを察するだろう。
「正直に報告してほしい。
生存者はいないのか?」
「っエルルカと、ペトラが!」
「ギラ!!」
「やっぱり見捨てるのはやり過ぎだロッド!!ペトラなんて巻き込まれただけじゃないか!!」
「っ言うんだ、ギラ・マーズ。これは命令だ」
ロッドの叱責を無視し、ギラは口を開いた。
「は…班長が食われた時、俺とロッドは怖くなって、か、隠れててっ
そしたら、ペトラのアンカーに巨人が引っ掛かって、木に打ち付けられたんです。
エルルカは次々巨人を討伐していましたが、ペトラが食われそうになった時…っ」
カタカタとギラが震える。
「っエルルカから翼が、生えたんです!
ペトラを庇って、…多分7体くらいに、噛みつかれてて…っ、翼から血が、吐血もしている様子で…!」
「…君らは彼女らを見捨てたのか」
「っエルルカが、気に食わなかったんですよ。ぽっと出のヤツが粋がって」
吐き捨てるようにロッドが続けると、リヴァイがロッドとギラを蹴り倒した。
「へ、兵長っ」
「言え。アイツはテメェらに何か言わなかったか?」
「ひっ…」
射殺さんばかりのリヴァイに、助けを求めるように周りを見渡すが、リヴァイ以外の上官三人は冷ややかに二人を見下ろしていた。
「っ、隠れてないで、助けを、応援を呼んで来い、と…!」
「エルヴィン」
「あぁ。ハンジも行ってくれ」
「分かった」
リヴァイとハンジは素早くアンカーを打ち込み、その場から離れた。
「…この二人を拘束しろ」
「っエルヴィン団長!!」
「リヴァイやハンジから、エルルカに対する嫌がらせが酷いと報告を受けている。
君たちの名も上がっていて、本当は壁外調査前に処分を考えていたんだ」
「え…」
「それをエルルカ本人が止めたんだ、自分の事で無駄に人員を減らすなと」
一週間前、一人エルヴィンの許を訪れたエルルカが言ったのだ。
気付いているかもしれないが、放っておけと。
「自分は何か言われるのも毒を盛られるのも当たり前の世界で生きてきた。
家族の文句を言ってこないなら放っておくと」
「な…」
「だが、君たちは故意に彼女を貶めるような発言をした。ペトラを巻き込んで」
「それはっ」
「言い訳はいらない。追って処分を下す。
連れて行け」
縄にかけられた二人を見送り、リヴァイとハンジが去って行った方をエルヴィンは見つめた。
「…無事でいてくれ」
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