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嗚呼、何故。
何故私は生きているんだろう。
私よりも生きるべき人はいたのに、何故。
「……」
ベッドにルナを横たえたヒソカは縁に座ってルナのさらさらとした髪をゆっくり梳き始めた。
ふと、己の得物でもあるトランプの一枚に念を込めルナの腕の表面に滑らせる。
「……やっぱり、」
半瞬して赤いラインが走るも数分もしないうちに吸い込まれるようにそれは消えて行った。
「深い傷は時間がかかるけど、浅い傷ならすぐ消えるんだね……◆」
己は自他が認める戦闘狂と自負している。
闘うのは好きだし、強い相手との殺し合いは格別だ。
だが、それも死がすぐそこにあるスリルから来るものである。
彼女のように己が不死だったら無かったのかもしれない。
己が戦闘に興味を無くすなんて考えられなかった。
「まだ、いたの?」
弱々しいルナの声が耳に届いた。
「いるよ◆
君が少し前から起きてたのも、気付いてた」
「……そう。」
もぞもぞと身じろぎして、ルナはすぐ口を開いた。
「言ったでしょう。私といては不幸になるわ。」
「ボクが不幸と感じるかどうか、キミが決める事でもないよ◇」
「っ私は!!復讐に生きる者よ!!」
ルナが身を起こし、すぐ横のヒソカへと怒鳴る。
「見てたでしょう!?聞いていたでしょう!?
私はディートリッヒを殺すまで追い続けるわ!!!
兄様や姉様、弟妹達の、イェルシカの仇を「仇を取って、キミはどうするの?」っ!?」
「目的を失ったキミは、どうするの?」
静かな問いだった。
しかし、その問いにルナはびくりと身を竦ませる。
「今までその不老不死の呪いを解く為に生きてきたのは分かるよ◆
でも、それ以上に今の目的はキミが彼を殺す事にあるのも分かる◆
その目的の後はまた呪いを解く為に生きるのかな?
今まで以上に孤独に何もかも背負って、死という全く見えない道の先に向かって歩くのかな?◆」
「それ、は」
「無理だ◆キミの性格上、きっと気が狂うだろうね」
ルナは怯えた視線をヒソカに向ける。
まるで、それ以上言うなと、もう暴くなと言うように。
「キミはね、」
「やめて、」
「自分が思っている以上に、」
「やめて……言わないで……!」
「弱いよ。弱くて、でも優しい。
それなのに自分の傷をずっと見て見ぬフリを続けて。」
「っっ、違う……っ」
「確かに身体の傷は残らないね。さっきの、心臓を引き抜かれた傷や咬まれた傷は部屋に連れて来る頃には殆ど残っていなかった。
でも、君に残っているのは心の傷ばかり。」
嫌々と耳を塞ごうとするルナの腕を抑えつけヒソカは続けた。
次第にルナの力が抜けていき、顔を背けながら腕を下ろした。
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