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「っっ、」
ガタンッ、とルナは雪崩れるように座り込み苦しげに眉を寄せた。
その頬に普段は見せない汗が噴き出ている。
「っあ、ぐ…!」
同室のヒソカは今は出払っている。
己は仕事をしつつモニターで見ているが、200階初のゴンの試合があったようだから見に行っているのだろう。
ルナは背中に手を当て、ある一点に触れて服を握り締めた。
「はっ…う、っ…………!!」
思考の片隅で、このタイミングでヒソカが戻らない事を祈る。
心配はかけたくない。
否。
化け物だと、思われたくない。
「我が主…!」
ふっ、と横に慣れた気配が現れルナの身体を支えた。
その人物にルナがややホッとした表情を浮かべる。
「アス、タロト…」
「呪いが…っ!」
ひら、とアスタロトはルナの背中の服を捲り顔を歪めた。
現在進行形で、ルナの背中にペキペキと不自然な音を立てて鮮やかな蒼色や翠色の鱗が現れている。
「ヒソカには、内緒、ね」
「だが!」
「心配、かけたくない」
本来の理由をひた隠し、お願い、と懇願すれば、物言いたげなアスタロトは黙ってルナをベッドに運び込んだ。
少しでも痛みが和らげば、と控えめにルナの背中を擦る。
「…主、」
「…何となく、言いたい事は分かってるわ……。
時間が、ない…」
「…我らに力を貸せと望んだのは主だろう。我らは主に従い、守る。
命じろ。我らは主の為にいる。」
契約はなかろうと、そう定められている。
契約などいらないのだ。
ルナの髪を撫でたアスタロトにルナは苦しげな表情の中、何処か嬉しそうに微笑んだ。
「ありがと…………アスタロト………」
その続きの言葉にアスタロトが頷くとルナは意識を飛ばして眠りについた。
「奪われてなるものか…」
ルナの濡れた額を拭いてやり、アスタロトの呟きはその姿と共に風に消えていった。
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