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「涼風だめ…!!」
「止めてくれるな。もう俺しか、お前を守ってやれない。
お前が傷付くのをあの二人は望まない。
ーーーーだから、こいつらは弥的と奈落ではない…!」
だが、せめて。
「せめて、弥的と奈落は俺が手を下す…!」
「!」
「義兄弟を切る?ましてや闘神・弥的にさえ手こずってた国津神・涼風が?
あはは、滑稽だね。おかし…、!?」
愉快そうに笑っていた“奈落”はふと硬直した。
急に黙り込み、癒月を掴んでいた手がゆっくりと開かれていく。
「なっ…」
自分の意思ではない行動に“奈落”が瞠目する。
どさっ、と解放され地に手をついた癒月は傷口を押さえたまま空いた片手を支えにしてその場から離れようと力を振り絞った。
「鶴夜!」
「紅蓮…!」
ふわっと抱き上げられる感触に顔を上げると心配そうに見下ろす騰蛇と目が合った。
癒月を抱き上げた騰蛇は動かない“奈落”から急いで離れる。
救出に邪魔が入る前に、と急いだが当の“奈落”はそれどころではないようだった。
「な…んで、っくそ…奈落か…!!?」
「「!!」」
“奈落”の言葉に涼風と癒月が瞠目する。
「奈落…?」
「まだ、意識が…?」
「『ミコト、涼風』」
二重に聞こえる声が“奈落”から続けられる。
咄嗟に“奈落”は自分で口を塞いだが、やはり意思と関係なくその手が退かされた。
「『に、げて』」
「奈落!!」
「『俺と、弥的を、殺して、』」
「そんな…!!」
「『もう、元に戻れない、だから…』」
奈落は苦しそうに哀笑った。
「『これ以上、涼風や癒月を傷つける前に…俺と弥的を苦しみから解放して…』」
「っな、らく…!!」
歯を食い縛る涼風の傍で癒月が騰蛇の絹布を握りしめながら絞り出すように名前を呼んだ。
「『ーー見ない間に、随分女の子らしくなったね。ミコト。』」
「っ…」
「『昔みたいに君を疎む者はここにいないし、君は愛される事で良い方に変わった。
ーーーーもうあの時みたいに、母親みたいに心を閉ざさなくてもいいからね。』」
「っえ…?」
差し迫る時間を感じ取ったのか、涼風が大鎌を構えて地を蹴った。
「『…気長に向こうで待ってるから、簡単に来ちゃダメだよ…?
涼風、ミコトの事頼んだよ。
またね、…月懋(つくも)の娘。』」
「!!?」
その言葉を最後に“奈落”の気に戻ると同時に一切の感情を押し殺した涼風は躊躇う事なく得物を降り下ろした。
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