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「何故なんだ…弥的(ヤマト)…何故アイツを狙う!!?」
「……」
出先から戻り、変わり果てた友人に顔を歪めて悲痛な声を漏らす。
その声すらも、己を暴走させている友人には届いていない。
それほど。
それほど思い詰めていたのか。
自分にも、誰にも打ち明けられず、一人で。
それでも。ずっと昔に三人で話したじゃないか。
「一緒に護るって誓っただろう…?」
俺達で、“妹”を護るんだと。
「何がお前をそうさせたんだっ…!!
目を覚ませ!!弥的!!!」
ずっと俯いていた弥的はゆっくり顔を上げた。
「っそれ、は…!!」
初めて“弥的”の顔を見た彼は絶句した。
“弥的”が被る面、それはーー。
声を絞り出した彼の言葉は“弥的”の爆発した氣に掻き消された。
ーーーーーー
ーーーーー
ちゃき、と。
通常よりも刃の短い特殊な装飾が施された短刀を見つめていた奈落は不意に顔を上げた。
「…?」
何か言い様の無い物を感じ取った奈落は持っていた短刀を同じような装飾の鞘に納め懐にしまった。
ゆっくり立ち上がり空を見上げる。
雲の多い夜空に、欠け始めた月が昇っている。
「あと、少し…」
あと四回夜を迎えると完全に月が隠れ新月が来る。
奈落はそれまでにしなければならなかった。
「ミコト…あ、そっか。今は確か…癒月、だっけ…」
以前会った時ミコトでも反応してくれていたが人界に出てからもらった彼女の名前を復唱して拳を握りしめる。
そういえば記憶を消されていた。
従者の時矢も消されているようだったし、恐らく他の者も消されているだろう。
少し厄介だ。誰が消したのだろう。
「思い出してくれないと…自分からは行かないだろうなぁ。」
人界に降りてから何があったんだろう。
五十余年前に眠りについて、最近漸く覚醒めたというのは風の噂で聞いているが何か関係があるのだろうか。
時が無いのにこちらも分からない事が多い。
俯きながら一人ごちて嘆息すると再び月を仰いだ。
「早く連れて行かないと……」
呟いた奈落の姿はもうそこには無かった。
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