▼ 06-1
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外にいるカモメの声が響く。
カカシは布団の上で重い瞼を持ち上げて小さく溜息をついた。
「(…写輪眼を使い過ぎた、か)」
「大丈夫かい?先生」
黒髪の女性ーーーータヅナの娘、ツナミが立ったままカカシを見下ろす。
「いや…一週間は身体動かすのもやっとで…」
「ほら、だったら暫くは動かない方がいいよ。
…あの女の子、彼女かい?」
「(女の子?)」
「先生と同じくらいの可愛い子。先生担いでウチに来た時、すっごい泣きそうな顔してたんだよ。
ずっと心配してて…後で謝んなよ。」
「あー…えぇ、分かりました(カノトか……)
あのカノトは……彼女はどこに…?」
「さぁ…?さっきまではここに居たんだけどねぇ」
カツカツ、と足音が聞こえたかと思うとサクラ達が室内に入ってきた。
「あ、先生起きてるってばよ!」
「もう何よ、写輪眼って凄いけど身体にそんなに負担が掛かるんじゃ考え物よね。」
「…すまない」
隣に座るサクラに痛いところを突かれ、カカシは大人しく謝罪を述べた。
「でもまぁ、今回あんな強い忍者を倒したんじゃあ暫くは安心じゃろう。」
「それにしても、あのお面の子って何者だったの?」
「あれは霧隠れの暗部、追い忍の特殊部隊がつける面だ。」
「特殊部隊…?」
「彼らは通称・死体処理班と呼ばれ、死体を消すかのごとく処理する事でその忍者が生きてきた痕跡の一切を消す事を任務としている。
忍者の身体はその忍の里で染み付いた忍術の秘密やチャクラの性質、その身体に用いた秘薬の成分等、様々なものを語ってしまう。
例えばオレが死んだ場合、写輪眼の秘密は全て調べ上げられてしまい、下手をすれば術ごと奪い取られてしまう危険性があるわけだ…
忍者の死体はあまりにも多くの情報を語ってしまう。
つまり追い忍とは里を捨て逃げた抜け忍を抹殺し、その肉体を完全に消し去る事で里の秘密が外部に漏れるのをガードするスペシャリストなんだ」
上半身を起こし、黙って物思いに耽るカカシにナルト達が首を傾げる。
「どうしたんだってばよ?先生」
「ん?あぁ、さっきの話なんだがーー」
日が傾きひやりと風が冷たくなって来る。
カカシが目を覚ます直前で部屋を出たカノトは誰にも悟られないよう気配を殺し今の今までずっと屋根の上で膝を抱えて蹲っていた。
内容は不明だが先程から微かに会話している声が聞こえるので恐らく自分が部屋を出たのと入れ違いでカカシは目覚めたのだろう。
「……駄目だなぁ」
独りごちて、きゅ、と口を結ぶ。
分かっていた。
先日あの程度の中忍相手にカカシが変わり身を使っていたのも何となく気付いていたし、写輪眼を使えば消耗が激しい為動けなくなるのも、分かっていた。
分かっている筈なのに、心が追いつかない。
否。
分かったつもりでいるだけなのか。
忍をしている以上嫌という程見る光景なのに、今まで仲間や敵でも散々見てきたというのに、どうしても彼だけは特別視してしまう。
『お嬢、中に入らないのか』
「…蘭牙」
『水辺の集落だ、木ノ葉の里よりも冷えるぞ。風邪をひく。』
「……大丈夫。」
辺りを見に行かせていた蘭牙が後ろからカノトに擦り寄る。
『悔やんでいるのか?』
「…」
『あの男……はたけカカシに写輪眼を使わせた事を』
「……状況から考えてもカカシは写輪眼を使わないと危なかった。」
『お嬢、我は状況の話をしているのではない。
お前が悔やんでいるのかどうかを問うている。』
「っ………」
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