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巻と鳥居の壮絶な訴えにより自家用車の迎えを呼ぶ事になった清継に親戚の家に行くからと断りを入れ、御神山へ向かう事になった紅葉とリクオは、山の麓で白いリムジンに乗って行く皆を見送りバスを待った。
「氷麗、全然気付かなかったね…」
「雪麗…母親と違って抜けてるのよねぇ。
目の前で見送ってるのに気付かないのはちょっと酷いけど。」
一日で数本しか来ないバスが到着し運転手以外誰もいないバスに乗り込む。
一番後ろの席で並んで座り、発車したバスに揺られ捻眼山を後にした。
「でも、ボクとしてはありがたいかな。」
「え?」
「さっきの話。氷麗には悪いけど、紅葉と二人になれたから。」
「っ…馬鹿!」
かぁぁ、と赤面してそっぽを向いた紅葉にくすくすと笑いリクオは口を開いた。
「紅葉の両親ってどんな人?」
「そうね…母は気が強いかな。自分の芯は基本的に曲げない。
父は口数少ないけど母と似たように芯を曲げないタイプ。
でも二人共凄く優しいわ。あたしが一人娘というのもあるけど、自分の子の為なら多分なんだってすると思う。」
そう話す紅葉の顔は懐かしそうに笑っており、どこか遠くを見つめていた。
「兄弟とか姉妹は?」
「いないわよ?あたしが家を出てから産まれてなければね。」
「そうなんだ。」
「元々、金華猫の一族で複数産まれるのは少ないわ。いないわけではないけど、いても大体は忠誠を誓った家臣達ね。」
「どうして?」
「詳しくは知らないけど、昔は兄弟間で勢力争いがあったりしたみたいだし、その名残じゃないかな。
あぁでも、千鶴(チヅル)達は珍しく三つ子だったわね。」
「千鶴?」
聞き慣れない名前にリクオが首を傾げると紅葉は“あぁ、ごめんごめん”と改めて説明する。
「若は知らなかったか。
千鶴はうちの腹心みたいな感じかな。奴良組でいう首無とかカラスとか、そんな感じ。
それで、千鶴は三つ子の一番上の兄で、下に妹が二人いるのよ。」
「そうなんだ。」
「千鶴はあたしの右腕で、千里(せんり)と千聖(ちさと)…下の二人はあたしの護衛係なんだけど、今は両親に尽かせてるわ。」
あ、お土産買ってくるの忘れた…と苦虫を噛み潰したような表情をしながら紅葉はスマホを開く。
「……?」
ここ最近何かと忙しくしていた為メールや通知が溜まっていたなと思っていると先程話に出た千鶴からメールが来ていた。
“FROM:千鶴
件名:大至急
本文:帰ってこい。”
「…タイミング良かったみたいね。」
「え?」
「実家で何かあったみたい。千鶴から帰還命令が来てる。」
「え!?い、急がなくて大丈夫?」
「公共交通機関使ってるんだからあたし達が焦っても仕方ないでしょ。」
手短に返信を打ちケータイをしまうと何処か落ち着かない雰囲気で紅葉はバスが着くのを待った。
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