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刻一刻と時間が過ぎてゆく。
やけに長く感じる時に焦れったさを覚えながら
紅葉は作戦を考えていた。
未だ意識のない少女が二人。
一度目覚めたものの檻の外いる鼠の怒りを買い制服を破られて殴られた上、再び意識を失ってしまった。
女の子がそんな姿では、と己のショールをかけてあげたもののこの二人がハンデとなっているため己は本来の姿になれない。
せめて二人さえ逃がせれば自分一人で何とかするのだが…
そこまで考えて、紅葉はふと昔の事を思い出した。
『なんでお前さん、こうも一人で片を付けようとするんかねぇ』
リクオが生まれて間もない時、リクオと若菜が狙われた事があった。
組総出で黒幕を調べ上げ紅葉と首無がいち早く巣窟に気づいたが首無に報告を任せて紅葉は首無の呼び止めも聞かず単身突入し、再び奴良組に攻め込もうとしていた敵の幹部に退路を塞がれ閉じ込められた。
片腕に折れた感覚、足にもかなり深い傷。
それでも大扇を離さず、紅葉の目には憎しみすら浮かんでいた。
死んでも、守る。
何がとは出てこなかった。
浮かんだのは愛した二代目、彼の後妻、生まれたばかりの若。
特に若には救われた事があった。
だから、守る。
あの幸せな家族を、壊させない。
大扇を握りしめ、躯に鞭打って立ち上がった時だった。
大きな音、土煙が舞い上がり奴良組の面子が押し入って来たのだ。
心のどこかで安心してふっと力が抜けそうになったのを後ろから支えたのは困ったような、呆れたような、それでも安心したような顔をした、二代目だった。
その時の事を思い出して小さく笑う。
「奴良組じゃないのにねぇ…あたし」
思い出に浸る事を中断しまた思考を巡らせる。
ふと、懐に手を当てた。
慣れた扇の感触。
彼女達に気づかれず、技を使う事も本性に戻る事も難しい。
不幸中の幸いというべきか、現時点で意識がない為、バレたとしても人間の姿の時にとぼけて知らないふりをしてもいいのだがその疑いの矛先は若に行くだろう。
妖怪でいる事を隠している若に
それはあまり好ましくない結果だった。
が、仕方ない。
「…大扇、金木犀の章」
懐から取り出した扇を広げ己の口許を隠すように術を発動させる。
辺りに霧が充満し始めた。
「なっ…なんだ?!」
「この…女ぁ、なにしやがった!!」
檻の付近を念入りに霧を濃くし、鼠達を近づけないよう惑わせる。
本性へと戻った紅葉は扇を再び開き、巨大化させ次の手を打った。
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