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初めは追い掛けた。
二度目は追う事が出来なかった。
だから
三度目があった時、逃げたかった。
「そろそろ、リクオが帰ってくる頃かのぅ…」
奴良組初代・ぬらりひょんはお茶を啜りながらボソリと呟いた。
彼の息子が亡くなって早一年と少し。
漸く奴良組の周囲は落ち着きを取り戻してきていた。
彼の息子──二代目・鯉伴の居ない生活以外に変わった事と言えば。
「そういえば…あやつ、あれから顔を出さなくなったのぅ…」
「ただいまーっ」
ぬらりひょんがまた呟いたと同時に彼の孫・リクオが帰宅の声を上げた。
バタバタとこちらに近付いてくる足音の方を見つめ、見えてきた孫の姿にぬらりひょんは目を細めた。
「おぉ、リクオや、おかえ…」
「じーちゃん!怪我してる猫拾ったんだ」
ぬらりひょんの部屋に入ってきたリクオの腕には真っ黒で艶のある毛並みをした黒猫が抱えられていた。
「お主…!?」
「…ニャア」
「?じーちゃんこの猫知ってるの…?」
明らかに動揺を見せたぬらりひょんに、ダメだっただろうかと不安気な表情をするリクオは無意識に猫を抱く腕に少し力を込めていた。
落ち着いたように一息して、ぬらりひょんは小さく笑みをリクオに向けた。
「リクオ、この猫は怪我をしてるんじゃな?」
「う、うん」
「…手当してやらねばならんじゃろうて。ワシが見ているから首無を呼んできてくれぬか。」
「!うん!」
ぬらりひょんの言葉に表情を嬉々とさせたリクオは近くにあった座布団を引き寄せて黒猫を下ろすとバタバタと廊下に出て行った。
「…で、どうしたんじゃ?」
「ニャ?」
「はぐらかすな、紅葉。ワシが気付かぬとでも?」
ぬらりひょんは紅葉と呼んだ猫を見つめると、猫は先程の何も知らない顔とは打って変わり、ぬらりひょんをジトッと睨み付けた。
『チッ…流石に分かるか。』
「当たり前じゃ、長い付き合いだからな。」
『…まさか若に拾われるなんて思っても見なかったわ。』
「そういえば、お主その傷どうした?」
『…まぁ、ちょっとね。』
人語を話し出した紅葉とそんな会話をしているところでリクオともう一人の男の声が二人の耳届いた。
『首無?』
「あぁ。」
「あ、あの猫だよ、首無。」
「なっ…紅葉様…!?」
「え?」
『…久方ね、首無。』
驚愕を浮かべる首無に紅葉がいうと猫が喋るとは思わなかったリクオは目を丸くした。
「リクオ、紅葉を覚えているか?」
「紅葉…?」
『最後に会ったのは…一年半くらい前かしらね。』
紅葉が呟くとシュゥゥ…と煙が部屋を満たしドロンッという音と共に晴れる煙の中から着物を体に巻いて帯で締めただけのような姿をした女性が現れる。
片足からは切傷のような傷がつけられていた。
「…あ!」
「思い出して頂けた?」
「紅葉!」
リクオが思い出したように表情を輝かせると紅葉は微笑してリクオを見つめた。
「久しぶり、若。」
「うん!今までどこにいたの?」
「……少し、実家に帰っていたの。」
何処か寂しそうな顔をして紅葉はリクオの質問に答えた。
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