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人間が、恨めしい。
「!」
生徒会立候補者の応援演説に励む“リクオ”の演説中、暗闇から膨れ上がる妖気に舞台袖にいた紅葉は暗い体育館をカーテンの横から見渡した。
否、妖気だけではない。
妖気に乗せられた身の毛が弥立つほどの恐怖、怨恨、憎悪。
「いる……!」
これだけの妖気だ、リクオや他の奴良組の下僕達も仕掛け時を狙っているだろう。
「あそこだ!!」
「てめぇ!!」
二階ギャラリーから聞こえる声。
暗闇に紛れて人間に化けている青田坊の声が次いで響いた。
「そのまま捕まえてろー!!」
セリフから察するに恐らく青田坊が紛れ込んでいる妖怪を捕まえたのだろう。
何が起こっているのか分かっていない生徒達がざわめき始める中、紅葉は大扇を構えてギリ…と歯を噛み締めた。
本当は自分も飛び出して加勢したいが、舞台上の“リクオ”を守り生徒達に危害が及ばないよう動けと命じられたのだ。
そして“リクオ”がバレないよう補助しろ、とも。
違和感を感じさせないよう目くらましの為に『金木犀の章』を発現しているのもその為だ。
「そのまま抑えてろ青田坊!!」
「おぉっ!!」
生徒達の中心で暴れているのだ、異変を感じた周囲の生徒が青田坊と捕らえている妖怪から距離を取る。
「キャア!」
「えっ!?」
「何っ…」
「ムダだ!てめぇはもう何もできねぇ!
紅葉様に噛みついたあん時の舌野郎じゃねーかぁてめぇー!!」
「!(舌野郎…!アイツか!)」
紅葉がハッと顔を上げた瞬間、肉が避けるような嫌な音が聴力のいい自分の耳に微かに入ってきた。
ブチ、ブチブチ…ッ
「!!」
暗闇の中、犬のような獣の首だけが空を飛び舞台へ一直線に向かっているのを紅葉は視界に捕らえた。
「っ…大扇、薔薇の章!!」
舞台袖で大扇を広げ唱えるとどこからか生えてきた無数の茨が壁や床を伝って舞台の“リクオ”へと一直線に延びていく。
牙を剥く憎悪に満ちた獣の生首と茨が舞台上の“若”に到達するのはほぼ同時。
「喰い殺してぇぇぇやるぜよ奴良リクオォオォオッ!!」
ガブッ!!
生首ーーー犬神の牙がマフラー越しに“リクオ”の首に突き立てられた。
「えっ!?」
「若!!」
「リクオ様!!」
「ガハッ……ハッ…!」
「リクオ様!!」
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